真・祈りの巫女244
 窓の外には強い雨が降っていた。いつもの夜明けよりも薄暗いのはそのせいね。身づくろいを終えて部屋を出ると、カーヤが顔を洗っているのが見えた。
「おはよう、カーヤ」
「おはよう。今日はずいぶん早いのね。まだ眠ってても大丈夫よ」
「うん、でも起きちゃったから。……今日は1日雨なのかな」
 カーヤと入れ違いに、あたしも顔を洗う。雨の日は外に出るのがついおっくうになっちゃうから、あんまり好きじゃないんだ。そういえば遠くで雷が鳴ってる音がかすかに聞こえる。
「さっきまですごい雷だったのよね。あたし、それで起きちゃったの。ユーナも?」
「ううん、雷は気がつかなかったわ。……そうか。それであんな夢を見たんだ」
 あたしが夢の中で聞いた獣鬼の咆哮は、きっと雷の音と雨が屋根を叩く音が混じりあったものだったんだ。 ―― 嫌な夢。怖い、よりも、すごく嫌な夢。
「夢? 何か怖い夢でも見たの?」
「……ううん、なんでもない」
 ごまかすように、あたしは窓の傍まで歩いていって、少しだけ隙間をあけてみた。雨足はずいぶん強くて、でも風があるからもしかしたらそれほど長い時間は降らないかもしれない。今日もきっといろいろあるから、雨がやんでくれるとすごく助かるもん。
「すぐに通り過ぎてくれるかな。……いっそ雨なんか降らなければいいのに」
「このところ降ってなかったものね。雨は神殿では嫌われてるけど、あたしは嫌いじゃないわ。なぜなら、雨が降ると畑に水をやらなくてすむから。巫女になる前は雨の日くらい嬉しいものはなかったのよ。……でも、道がぬかるんで坂道が滑るから、今日はユーナもリョウの家には出かけない方がいいわね」
 確かに村の畑には恵みの雨なのかもしれない。でもカーヤにそう言われて、あたしは余計に雨が嫌いになった気がした。