真・祈りの巫女242
 あたしを宿舎に送り届けたあと、タキは再び草原に戻ったようだった。
 リョウに追い返されたことがちょっと悔しくて、あたしはひとしきりカーヤに愚痴をしゃべったあと、食卓のテーブルに肘をついて膨れていたの。カーヤは夕食を作りながら、そんなあたしを笑った。
「 ―― ユーナにはそれ以上できることはなかったんでしょう? だったらリョウが遅くなる前にユーナを帰らせようって思ったとしても当たり前だと思うわよ。そんなに機嫌を悪くすることないのに」
「でも、それならあたしに一言言ってくれればいいじゃない。そうしてくれたらちゃんとリョウにお別れも言えたよ」
「ユーナったら、ずいぶんリョウに厳しいわね。さては、リョウといいことでもあったの?」
 カーヤに核心を突かれて、あたしは自分の顔が熱くなるのを感じた。カーヤ、鋭すぎるよ。それともあたしが態度に出しすぎてるの?
「キス……してくれたの。それと、あたしと一緒に村を守るって、俺を頼っていいって。そう言ってくれた」
「どうしてそれを先に言わないのよ。……でも、よかったわね。たとえ記憶がなくても、リョウはちゃんとユーナを覚えているのね」
 あたしはカーヤに向かって微笑んだけど、言葉ではカーヤに肯定することはできなかった。
 どうしてなのかな。なんとなく、違和感がある。リョウの態度があたしを不安にさせる。自分が本当にリョウに愛されてるのか判らなくなるの。一緒にいたあのときまでは、そんなこと思わなかったのに。
 タキは、リョウが村のために一生懸命になるのは、村に大切なものを見つけたからだって、そう言った。きっと、リョウがあたしを大切に思ってるって、そう言おうとしたんだと思う。でも、それはたぶん違うよ。今のリョウが大切にしているのはあたしじゃない。
 あたしが黙り込んでしまったから、カーヤは料理に最後の仕上げをして、テーブルに並べてくれた。
「ほら、ユーナ。あんまり考え込んでちゃダメよ。おなかが空いてると考えがどうしても暗い方へ行っちゃうんだから。同じ考えるんだったら、おなかがいっぱいになってからの方がいいわ」
 カーヤはその哲学を、今までも何度か披露してくれていた。そして、あたしはカーヤの料理にその哲学を裏切られたことなんてないんだ。
「リョウは、明日会おう、って言ったんでしょう? それって、明日もユーナのことが必要だって、そういう意味だと思わない?」