真・祈りの巫女240
 西の森を出てから、リョウは村の中をあちこち歩き回っていた。あたしはずっとリョウの邪魔をしないように少し離れてついていった。リョウは村の、どちらかといえば南側の森や北西の崖の方に興味を持っていたんだけど、あたしにはリョウが考えていることはよく判らなくて、ときどき質問に答える以外は口を挟むこともできなかった。
 あたりが暗くなり始めた頃、リョウはやっと待ち合わせの草原へと歩き始めた。あたしがまだ声をかけるきっかけをつかめずにリョウを見上げていたら、リョウの方から話しかけてくれたの。
「おまえは祈りのときに、祈る対象の名前を使うと言ったな。実際にはどうするんだ? 祈りはすべて言葉で行うのか? それとも、名前だけを唱えて、祈りの内容についてはイメージで伝えるのか?」
 リョウがどうしてそんなことを訊ねるのかは判らなかったけど、あたしはリョウの言葉の意味を読み取って、答えを返していた。
「その時々によるわ。誰かの願いを祈るときには、たとえば「カーヤを幸せにしてください」みたいにすべて言葉で伝えることもあるし、今回のように村が襲撃されてるときには、人々の恐怖の感情を神様に伝えて、影が村から去っていくところをイメージするの。……あんまり深く考えたことがなかったけど、今起こっていることを退けるような祈りは、イメージを伝えることの方が多いみたい」
 あたし、今まで誰にもこんなことを訊かれたことってなかったから、自分でも考えたことがなかったんだ。リョウに訊かれて改めて考えて、あたしがこれからする祈りは、イメージが主体になるんだってことに気づいたの。
「だったら、おまえは獣鬼の足を止めるようにイメージしろ。おまえの祈りで獣鬼の足を止められたら、あとは俺が鍵を抜くことができる。獣鬼の動きをとめることだけ考えるんだ。余計な祈りをするよりも、それが1番確率が高い」
「足を止める……? でも、森の手前には大きな穴を掘ったのよ。それだけじゃダメなの? 獣鬼を止められないの?」
「ああ。俺の考えに間違いがなければ、あの穴だけじゃ獣鬼は止められない。だけど、それ以上の作戦を今俺は考えられないんだ。……あの穴は、この村の地形を考えたら1番有効で、今の段階では完璧な作戦だ。だけど間違いなく獣鬼の奴は突破してくる。おまえの祈りの力に期待するしかないんだ」
 あたしは、しばらくの間声も出さずに、ただ考え込んでしまった。