真・祈りの巫女239
 リョウがちょっと意外そうな表情で振り返る。見つめられて、あたしはどんな顔をしたらいいのか判らなくなってしまった。
「それは、いつの話だ?」
「ええっと、あたしが5歳のときと、12歳のとき。12歳のときはリョウが助けてくれたのよ」
「おまえは今いくつなんだ」
「……16歳」
 あたし、よもやリョウに年齢を訊かれるなんて思ってなかったみたい。なんだか少しショックで、それきり何も言えなくなってしまうと、リョウはまた沼に向かって歩き始めたの。沼の淵に膝をついて、右手をそっと水面に差し伸べた。少しの間右手を沼の水につけたあと、ちょっと考えるようにしながら立ち上がったんだ。
「……普通は同じ沼に2回も落ちたりしないよな」
 あたし一瞬リョウにからかわれたんだと思った。でも、そう言って振り返ったリョウの表情はすごく真剣で、反論しようとしたあたしは言葉を飲み込んだの。
「おまえ、ここに近づくなよ。俺は平気だけど、おまえは近づくと引き込まれる。……2度あることは3度あるかもしれないからな」
「……どういうこと?」
「この沼には、おまえを殺そうっていう強い意志が満ちてる。おまえがここに2回も落ちてるんだったら、今生きてる方が不思議なくらいだ。おまえを助けて死んだ幼馴染ってのは、よっぽど意志が強い奴だったんだろう」
 あたしがこの沼に落ちたのは、偶然だったんじゃないの? 影は、あたしが小さな頃からずっと、あたしを殺すチャンスを狙ってたの?
 シュウは、あたしを助けてくれたシュウは、あたしが祈りの巫女だから死んでしまったんだ。もしもあたしが祈りの巫女じゃなかったら、あたしはこの沼に引き込まれることもなくて、シュウだって死なずにすんだ。シュウも影の犠牲者だったんだ。
「あたし、小さな頃、シュウのことが大好きだった。……ずっと昔から、あたしは村の人たちを不幸にしてきたんだ」
 あたしのつぶやきに、リョウは目を見開いた。そのあと、静かに目を閉じて、なぜか唇に微笑を浮かべた。