真・祈りの巫女237
 しばらくしたあと、タキは「その問題については少し時間が欲しい」と言って、結論を保留してしまった。そう言われてしまえばあたしはそれ以上何も言えなかったから、黙ったまま2人のあとについて村へと降りていったの。リョウとタキとはさっきまで話していた狩人のことについて少し言葉を交わして、ひとまずタキが狩人を集めて、あたしはリョウに村の案内をすることになったんだ。
「明るいうちに西の森だけでも見ておいた方がいいね。それと、影の足跡がまだ残ってるところがあるはずだから。暗くなる前に草原で落ち合うようにしよう」
 そう言ってタキが離れていったあと、あたしとリョウは村の通りを歩いて、まずは西の森へと向かっていった。そこは村の主要な通りの1つで、しかもあたしが毎日リョウと一緒に通っていた道でもあったから、人通りも多くてすぐに知り合いにつかまっちゃったの。
「リョウじゃない! 祈りの巫女、リョウが生き返ったってのは本当だったんだねえ!」
「怪我をして寝込んでるって聞いてたけど、もう大丈夫なのかい?」
「村のことを覚えてないっていうのは本当? 今でも何も判らないの?」
 最初は1人1人丁寧に相手をしてたんだけど、そのうち騒ぎを聞きつけてあちこちから集まってきちゃったから、あたしは適当な言葉であしらわなければらなかった。だって、まだ夕方というには早い時刻だったけど、あんまりゆっくりしていられないのは判りきってたから。その間中、リョウはずっと沈黙を守っていて、じっと人々を観察しているように見えたんだ。
 そんな感じでときどき足止めされたけど、あたしとリョウは何とか無事に、西の森までたどり着いていた。
 森の手前、ほとんど森との境目ぎりぎりの辺りから、大きな穴が掘られていた。その周りでは作業している男たちがたくさんいて、あたしが声をかけるより前に、1人が気づいてあたしたちに近づいてきたんだ。
「祈りの巫女、あまり近づくと危ないよ。……今日はどうしてここに?」
「リョウに村を案内してるの。次の襲撃にはリョウも村を守る戦いに出ることになるから」
「リョウ? ……ああ、それじゃ、彼が村のために生き返った狩人のリョウなんだ」
 この人はリョウの顔を知らなかったみたい。あたしが視線を向けると、リョウは穴に近づいて、中を覗き込んでいるところだった。