真・祈りの巫女235
 リョウの言葉は、あたしの意見に対する否定じゃなかった。それに勇気付けられてあたしはさらに続けたの。
「神様にとっては祈りの場所はどこでもいいのよ。いつも神殿で祈るのは、神殿があたしにとって祈りやすい場所だからなの。最低の条件として、ろうそくの炎が消えないことと、あたしが祈りに集中できること。それさえそろってれば問題ないわ」
「だったら風除けの板でも立てればいい ―― 」
「ちょっと待ってくれよ!」
 リョウの言葉をさえぎる形で、タキが話に割り込んでくる。
「2人で勝手に話を進めるな! リョウ、君は簡単に言うけど、祈りの巫女は影に狙われてるんだ。そんなに簡単に村へ降りるなんてできる訳ないじゃないか。判ってるのか? そんなことをして万が一祈りの巫女になにかあったら、それだけで村の存亡は危うくなるんだ。祈りの巫女、君にだって判ってるはずだ。もっと自分の安全を考えてくれよ!」
 あたしはタキの勢いに押されて、とっさに何か言うことができなくなっていた。少しの沈黙があって、言葉を発したのはリョウだった。
「何を熱くなってる。……おまえらしくないんじゃないのか?」
 リョウは、たぶん当てずっぽうでそう言ったんだと思うんだけど、タキはふだん冷静な自分を思い出したのか少し落ち着きを取り戻していた。
「祈りの巫女、オレは村の神官として、有事の際に巫女が神殿を離れるのに賛成することはできないよ。今でも村の中では神殿が1番安全な場所なのは変わってないんだ。祈りの巫女が狙われているのが判ってる以上、君を村へ降りさせることはできない」
「どうしてそう、頭ごなしに反対する。こいつだってそんなことくらい判ってるだろう。反対されるのが判っててそう言ってるんだ。少しは話を聞いてやれよ」
「リョウ、君は心配じゃないのか? 祈りの巫女が影に殺されてもいいって言うのか?」
「そんなことは言ってねえ。ただ、村を守るためにはそれが最善だって思うなら、その意見も尊重するべきだって言ってるだけだ。……俺は別にかまわねえよ。こいつが俺の傍で祈るって言うなら、俺が獣鬼からこいつを守ってやる」