真・祈りの巫女236
 リョウがあまりにあっさりとした口調でそう言ったから、タキは一瞬反論の言葉を見失ってしまったみたいだった。あたしも、リョウに言われた言葉を理解するのにちょっと時間がかかってしまったの。だって、リョウがこんなに簡単にあたしの意見を受け入れてくれるとは思ってなかったから。
 きっと、以前のリョウならこんなとき「オレに任せておけばいいよ」って言ってくれてた。「ユーナに危険なことはさせたくない」って。でも、あたしは心の中でずっと思ってたんだ。リョウが背負っているものを、あたしも一緒に背負っていきたい、って。
「タキ、お願い。あたしが村で祈りを捧げられるように一緒に考えて。あたしだってみんなに迷惑をかけたいなんて思ってないの。だから、どの場所で祈るのが1番危険が少なくて、リョウやみんなに迷惑をかけずにいられるのか、タキに知恵を貸して欲しいの」
 タキはまだ混乱から抜け出していないようで、心を落ち着けようとしたのか、1つ溜息を吐いた。
「つまり、君は今までの祈りの方法に不満があるんだね。そう思っていいのかな?」
 あたしは、タキの言葉の真意を掴みかねて、少し怯んでしまっていた。
「そう……だと思う。今まで気づかなかったけど、今そうだったんだってことに気づいた。……ううん、ちょっと違うかな。リョウが影の名前を知ってるかもしれないことが判って、欲が出てきたの。新しい祈りの方法を試してみたくなったの」
「それで、名前の伝達がより速く行える村で祈りたいってことになったのか。ということは、問題は距離だけなんだね」
「距離と、あと今思ったんだけど、あたしはまだ実際に影が暴れる姿を見ていない。だから1度その姿も見てみたいわ。村を広く見渡せる場所を探したいの」
 タキはまた少し沈黙した。あたしはそんなタキが再び口を開くまで、辛抱強く待っていた。
「……それは、なかなか困った注文だね。祈りの巫女、君から影の姿が見えるってことは、影からも君の姿が見えるってことだ。君の姿を見た影が全力で君を追いかけたら、動作の早い影の動きには誰もついていけない。君だって逃げ切れるとは思えない」
「だから獣鬼の足を止めるんだろ? 獣鬼は近くにいるものにしか攻撃できないんだ。足さえ止まれば俺が獣鬼を殺せる」
 再びリョウが口を挟んだから、あたしにはわずかながら光明が見えた気がしたんだ。