真・祈りの巫女234
 守りの長老にも同じ話をしたからなのかもしれない。あたしに話したときよりもずいぶん要領よく、リョウはタキに説明していた。
「 ―― 死んでいる間に俺がいたところでは、おまえたちが影と呼ぶあいつは獣鬼と呼ばれていて、人間の仕事を手伝ってた。草原にいるのは獣鬼の中のブルドーザってヤツだ。獣鬼は鍵を抜くことで永久に動けなくなる。……これがそうだ」
「……これが獣鬼の鍵? 本当にこれを抜くだけでいいのか? それで影は動けなくなるのか?」
「ああ。だからこれの抜き方を狩人に教えれば、それ以上村が破壊されるのを防ぐことができる。ただ、これは獣鬼の身体の中……言ってみれば甲羅の下にある。獣鬼の動きはかなり素早いからな、実際はそう簡単にはいかないはずだ。まずは狩人たちに鍵の抜き方を教えて、作戦を立ててもらわなけりゃならねえ。俺が急ぐのはそのためだ」
「影の動きを止めるのか。……今、西の森の出口には大きな穴が掘られてる。それだけでもかなり足止めには有効なはずだけど、ほかにも足を止める方法を考えなければならないかもしれないな。確かに、今日のうちに話しておいた方がいいよ。今ならまだ別の方法も実行に移せる」
 タキはあたしよりもずっと順応性が高いみたい。リョウの言わんとしていることがすぐに理解できたみたいで、もう自分の考えに没頭しちゃってる。リョウもそれには驚いたみたい。少しの間タキの様子を見ていたけど、やがて無駄だと判ったようで、あたしの方を振り返ったの。
「おまえは? 俺たちに話があったんじゃないのか?」
 あたし、リョウに無視されてたんじゃないんだ。それが嬉しくて、自然に笑顔になっていた。
「あたしね、さっき祈りながら考えてたの。リョウはブルドーザの名前を教えてくれたけど、2日後にはまた別の獣鬼がくるかもしれないわ。もしもそれをすぐに伝えてもらえたら、祈りに役立てることができるの。だからあたし、できればリョウの近くで祈りたい。リョウが獣鬼の姿を見て、その名前をすぐにあたしに伝えることができるところ。獣鬼がきているときにあたしも村に降りたいの」
 そのあたしの言葉に、タキも顔を上げてあたしを見た。でも言葉を発したのはリョウの方が早かった。
「神殿でなくてもいいのか? おまえの祈りは、神殿以外の場所でも神に届けることができるのか?」