真・祈りの巫女230
 以前のリョウは、あたしに嘘をつかなかった? ううん、リョウだって嘘をついたことくらいあるよ。大切なことをあたしに打ち明けてくれなかったことも。
 落ち着かなきゃ。こんな小さなことでいちいちリョウを疑っててもしょうがないよ。嘘をつかない人間なんていないもん。リョウのことを信じようって、さっき決心したばかりなんだから。
「村のことはほとんど思い出してないわ。でも、カーヤのことはどこかで見たことがある気がするって言ってた」
 ずいぶん長い時間沈黙してしまったけど、あたしがそう答えたことで、2人ともほっとしたようだった。
「それは光栄だわね。……でも、それならどうして長老に会いに行ったのかしら」
「たぶん村に受け入れてもらったお礼を言いたかったのもあると思う。あたしが席を外す前にリョウが長老にそう言ってたから」
 あたしの言葉は歯切れが悪かったから、その場の雰囲気が少し重くなっていた。あたしはごまかすつもりはなかったんだけど、そんな空気を追い払いたくて話題を変えたの。
「そういえば神殿で運命の巫女とセトに会ったの。あたしちょっとびっくりしちゃって」
「どうして? なにもおかしくないと思うわ。神殿に運命の巫女がいても不思議はないし、セトは運命の巫女の担当なんでしょう?」
 カーヤが明るい声で乗ってきてくれたから、あたしは助けられたような気がした。
「そうなんだけどね。運命の巫女も疲れてたし、たぶんそのせいで気が立ってたんだと思うけど、いきなりセトと口げんかを始めちゃったの。……ねえ、あの2人、昔なにかあったのかな」
 あたしが興味津々、身体を乗り出すと、カーヤとタキは再び顔を見合わせて、やがて思いついたようにカーヤが言った。
「そういえばユーナは見習いのときから修行で忙しかったものね。巫女の噂話なんか知らなくても当たり前だわ。……あのね、ユーナ。運命の巫女がまだ独身だったころ、セトは運命の巫女に告白したのよ。でも、彼女には幼馴染の恋人がいたの」
「それで? セトはふられちゃったの?」
「そ。だからそれきりセトは運命の巫女に頭が上がらないのよ。……今はセトも幸せだし、2人にとってはいい思い出なんじゃないかな」