真・祈りの巫女229
 偶然通りかかっただけなのに、なんともいえないような光景を目にして、あたしは毒気を抜かれてしまったみたい。2人の姿が宿舎の影に消えるまでは歩き出すことも思いつかなかった。運命の巫女もセトも、それぞれ結婚していて子供もいて、ごく普通の幸せな家庭を築いてる。だから今までは2人がどういう過去を持ってるかなんて考えもしなかったんだ。人には歴史があるんだな、なんて、改めて感心してみたりしたの。
 そういえば巫女と神官の夫婦ってあまりいないんだ。カーヤがタキのことを恋人として考えられないのも同じ理由なのかな。そんなことを思いながら自分の宿舎へ戻った。ノックをして、カーヤの声を聞いてドアを開けると、食卓にタキがいてあたしを驚かせたの。
「やあ、お帰り祈りの巫女。……リョウは一緒じゃないのかい?」
「……ええ。リョウが守りの長老に会いたいって、今長老宿舎で話をしていて……。タキは? どうしてここに?」
「さっき下へ行ったら、ミイからリョウと祈りの巫女が散歩に出かけたことを聞いてね。一応ここにも寄ってみたんだ」
 そういえば、タキは午後になったらまたリョウの家へ行くって言ってたんだっけ。
「無駄足させちゃったのね。ごめんなさい」
「構わないよ。それより、リョウが守りの長老に会いに行ったってことは、少しは何か思い出したのかな。祈りの巫女は聞いてる?」
 タキはおそらく、純粋にリョウのことを聞きたかっただけなんだと思う。でも、あたしは言葉に詰まってしまったの。なぜなら、さっきリョウが守りの長老と話していた言葉を思い出したから。
 あたしにはほとんど理解できなかった会話。でも、あたしにも判ったことがあるの。それは、リョウが以前から「右の騎士」という言葉を知っていたこと。その事実と、ほとんど忘れかけていた川でのちょっとした出来事が一致したんだ。
 川で、あたしはリョウが言った言葉が「右の騎士」って聞こえたから、それをリョウに問いただした。そのときリョウは「聞いたことがない言葉だ」って言ったんだ。リョウはあの時、あたしに嘘を言ってたんだ。
 あたしが黙り込んでしまったから、タキとカーヤは顔を見合わせていた。でもあたしは、リョウがあたしに対して嘘をついたことで、頭の中がいっぱいになってしまったの。