真・祈りの巫女228
 あたしがきつい口調でたしなめたことに、運命の巫女は少しだけ驚いたようだった。でも、言葉にしたのは別のことだった。
「祈りの巫女、リョウはどうしているの?」
 とつぜん話題が変わったから、あたしは少しだけ答えるのが遅れてしまった。
「リョウなら今、長老宿舎にいるわ。守りの長老と2人だけで話をしているの」
「右の騎士が動き出したのね。だったら未来も変化したかもしれないわ。こうしてはいられない ―― 」
「運命の巫女!」
 間違っても機敏とはいえない動作でセトを押しのけようとうごめいた運命の巫女に、そう叫んだのはセトだった。そのままセトは、あたしが驚くのもかまわず、運命の巫女をひょいと抱き上げたんだ。
「冗談じゃない。歩けなくなるほど疲れてるのに、これ以上ここに置いておけるか。祈りの巫女、運命の巫女はオレが責任を持って休ませるから心配しないで。悪いけど扉を開けてくれる?」
「え、ええ」
「ちょっと、放しなさいセト! あなた神官でしょう? 運命の巫女の言うことが聞けないの!」
 運命の巫女を抱いて歩き始めたセトの先回りをして、あたしは神殿の扉を開けた。そんなセトに運命の巫女がいきなり罵声を浴びせ始めたから、あたしはずいぶん驚いてしまったの。だって、あたしが知ってる運命の巫女って、どんな時でも冷静な大人の女性だったから。
「立ち上がることもできないくせに何を言ってるんだ。巫女の健康管理も神官の責任なんだよ。……もっと早くこうしておけばよかった」
「時間がないのよ! 私がこの先どれだけ詳しく未来を見られるかで村の被害がぜんぜん違うんだから!」
「あと2日ある。とにかく今日と明日は休むんだ。もう宿舎から1歩も外に出すつもりはないからな」
「なによ! 私が結婚するって言ったとき、あなた泣いたじゃない。何でも言うこと聞くから、って。忘れたなんて言わせないわよ!」
「な……! いきなりなにを言い出すんだ! 祈りの巫女が驚いてるじゃないか。……こら、暴れたら落っことすぞ ―― 」
 そうして、言い争いながら石段を降りていく2人のうしろ姿を、あたしは半ば呆然と見送っていた。