真・祈りの巫女227
 リョウの話が終わるまで宿舎で待つことにして、長老の世話係の神官にあたしの居場所を言伝した。それでもまだ少し名残惜しくて、ゆっくりとした歩調で宿舎へ向かっていると、神殿への石段の上にセトの姿を見つけたの。ここにセトがいるってことは、神殿の中には運命の巫女がいるってことよね。あたしは、リョウを待っている間に祈りを捧げるのもいいなと思いながら、その石段を上がっていった。
「こんにちわ、セト」
 声をかけると、セトは少し悲しげに見える表情で微笑した。
「こんにちわ、祈りの巫女。君も祈りにきたのかい?」
「今は違うわ。……中には運命の巫女が?」
「ああ。今日だけで3度目な上に、入ったきりしばらく出てこない。そろそろ様子を見てみようと思ってたところだよ」
 運命の巫女は、ずっと未来を見ていてかなり疲れていたはずだった。もしかして中で倒れてるかもしれない。そう思って、セトと2人でできるだけ音を立てないように扉を開けると、神殿の中央に両手をついたままの運命の巫女を見つけたんだ。
「運命の巫女!」
 セトが叫んで駆けていくうしろからついて、あたしも駆け寄った。運命の巫女は、さすがに気を失ってはいなかったけれど、自分ひとりでは立ち上がれないほど疲れきっていたの。セトが抱き寄せると、あたしの顔を見てちょっと驚いたようだった。
「ありがとうセト。……祈りの巫女、祈りの邪魔をしてごめんなさいね。すぐに出て行くわ」
「あたしのことは気にしないで。それより、こんなになるまで身体を痛めつけちゃいけないわ。次に影が村を襲うまでまだ2日もあるのよ」
「……見えないのよ、祈りの巫女。もっと詳しく見たいのに、あれからぜんぜん未来が見えない ―― 」
「そんなに疲れてたら見えるものも見えないよ! お願い、約束して。今日と明日はもう神殿に来ない、って」
 あたし、心配だった。運命の巫女はすっかり容貌が変わってしまっていて、このまま死んでしまっても少しもおかしくないような顔色をしていたから。村の未来を少しでも見たいって、その気持ちはあたしには判るの。だけど、それでもしも運命の巫女が命を縮めてしまったら、村にとってはとてつもない損失になるんだもん。