真・祈りの巫女225
 リョウはあたしをパートナーとして認めてくれたんだ。だからあたしも認めようと思ったの。リョウが獣鬼と戦って死ぬかもしれないなんて、そんなこともう考えない。リョウを信じるんだ。リョウは獣鬼に負けずに生き残って、村が平和になったときには、あたしと結婚してくれるんだって。
「リョウ、もしも知ってるなら教えて。あたしの祈りにはね、祈る対象の名前がすごく重要なの。さっきリョウはあの影が獣鬼だって教えてくれたけど、それは本当の名前なの? あの影は獣鬼という名前なの?」
 リョウは少しの間考えていた。あたしはリョウが死んでいる間にいた世界のことを知らないから、あたしにも判るように言葉を選んでくれているみたい。
「『獣鬼』という言葉は、いってみれば『動物』という言葉と同じような意味だ。この村ではカザムもリグもルギドもぜんぶまとめて動物と呼ぶだろう? 獣鬼はそういう意味だから、厳密に言えば名前じゃない」
「そういえば村を襲ってる影はいろいろな姿をしてたって聞いたわ。今、草原で死んでいる獣鬼はなんて名前なの?」
「あれはブルドーザだ」
「ブルドーザ……?」
 あたしは口の中でつぶやいて、その不吉な響きにぶるっと身体を震わせた。
「それが、あの獣鬼の本当の名前なのね」
「カザムというのと同じ意味の名前だ。俺にはそれより詳しい名前は判らない。おまえの祈りにはもっと詳しい名前が必要なのか?」
「ううん、それだけ判れば十分よ。村に現れた違う姿をした獣鬼にはまた別の名前があるのね」
「たぶんな。俺が見れば判るかもしれないけど、もしかしたら判らないかもしれない。俺は1度も獣鬼を操ったことがなかったんだ。……もっといろいろやっておくんだったな」
 最後の方は独り言のようで、あたしはそれほど気に留めなかった。リョウが教えてくれたブルドーザという名前を頭の中で繰り返して覚えていたの。だからあたしはまだ、死んでいた間にリョウがいたところやその生活について、あまり興味を持たなかったんだ。