真・祈りの巫女224
 リョウの腕も、リョウの匂いも、ぜんぜん前と変わってない。比べちゃいけないって判ってたけど、でも同じだってことが確認できて、あたしはすごく安心できたんだ。そのくらいのことはきっとリョウも許してくれるよね。ずっと変わらないリョウの腕の中は心地よくて、夏の盛りでちょっと汗ばんでもいたけど、でもずっとここにいたいって思ったの。
 やがてリョウは腕の力を抜いて、あたしの顔を覗き込むとそっと髪をなでてくれたんだ。
「おまえ……俺でいいんだな」
 あたしがうなずくと、リョウは頬にキスをくれた。どちらかというとあたしの方が信じられない気がするの。リョウは本当にあたしでいいの? 記憶を失って、顔も覚えていない女の子がいきなり婚約者として目の前に現われたのに、あたしのことを選んでくれるの?
「リョウは……? まだあたしのことは思い出せないんでしょう? それでもいいの?」
 あたしの言葉に、リョウはほんの少しだけ目を見開いて、それからちょっと視線をそらしたの。まるでなにか後ろめたいことでもあるみたいに。ほんの一瞬、不穏な空気が流れかけたけど、すぐにリョウが笑顔を見せてくれたからその雰囲気は一瞬で去ってしまっていた。
「……正直言って、今の自分がどう思ってるのか、俺にはよく判らねえ。だけど、おまえのことは守ってやりたいと思ってる。……独りで戦うことはねえよ。頼りたければ頼ればいい。俺が一緒に戦ってやる」
「……一緒に……? あたしはリョウに頼ってもいいの?」
「さっきも言っただろ? 俺がここに来たのは、おまえと一緒に戦うためだ。あの獣鬼に会って判った。おまえのその、村を守りたいって気持ち、それを俺に預けろ。俺が必ず勝たせてやる。この村を、元の平和な村に戻してやる」
 リョウの答えは、あたしが期待してたものとは少し違ってたけど、でもあたしは嬉しかった。
 あたしは独りじゃない。村のみんながあたしと一緒に戦ってくれていることは判ってたけど、でも、あたしはリョウの言葉が1番嬉しかったの。だって、あたしにはリョウが1番なんだもん。そのリョウが、あたしの隣であたしと一緒に戦ってくれると言ってくれたんだもん。
 リョウにとっては、あたしは出会ったばかりの他人。だけど、これから先ずっと一緒にいたら、いつかあたしはリョウにとって1番大切な人になれるよね。そう思ってていいんだよね。