真・祈りの巫女223
 言葉を切ったあとのリョウは、とてもつらそうな目をしてあたしを見つめていた。だからあたしにも判ったの。リョウがずっとそう言わずにいたのが、少なくとも半分はあたしのためを思ってのことなんだ、って。
 リョウの記憶はもう戻らない。それはきっと真実で、でもあたしは認めたくなんかなかったんだ。信じていればいつかは昔のリョウに会える。小さな頃からあたしを大切にしてくれたあのリョウに。
 リョウの記憶は、あのリョウと一緒に死んでしまった ――
「……リョウは、思い出したくないの? それは以前の自分には戻りたくないってこと?」
 どう答えるべきか、少しだけ迷ったように、リョウは視線を外した。
「そんなことを思ってる訳じゃない。ほんとに記憶が戻るならそれでもいいさ。だけど、俺はおまえに過大な期待は持って欲しくない」
 それって、どういう……
「いいじゃねえかよ。俺はここにいる。それで納得しろよ。……いつまでも死んだ俺の面影を探すな」
 ……もしかしてリョウ、昔の自分に嫉妬してるの……?
 視線をそらして、幾分顔を赤らめているリョウを見て、あたしは驚いたと同時にすごくリョウを愛しく思ったの。生き返ってからのリョウは今まであたしに言葉をくれなかった。キスしてくれたから、それで自分が好かれてるのかもしれないとは思ってたけど、こんな風に気持ちを表現してくれたのは初めてだったから。すごく嬉しくて、でもちょっとだけ反省したの。あたしは今までずっと、過去のリョウと今のリョウとを比較し続けてきて、それが全部リョウに伝わっていたことが判ったから。
 大丈夫。記憶があってもなくても、あたしはリョウを愛せるよ。だって、こんなにかわいくて愛しい人、ほかにいないもん。
「リョウ、大好き……」
 リョウが愛しくて、あたしは横を向いたリョウの首に抱きついた。リョウはちょっと驚いたように身体を震わせたけど、やがて腕を伸ばしてあたしをしっかりと抱きしめてくれたの。