真・祈りの巫女222
「俺がいたところでは、獣鬼……とその仲間のようなものは、人間と共存して、人間の役に立ってた。人間よりも強い力を持ってるから、人間にはできないことをして、人間の生活をより良いものにしていた。町を歩いていればよく見かけることがあったし、人間の中には獣鬼を手足のように使うことができるやつもいた。基本的には獣鬼は人間の味方なんだ」
 リョウは言葉を選びながら、できるだけあたしが判りやすいように説明してくれてるみたい。でも、あたしには想像すらできないよ。あの恐ろしい獣鬼がいつも村にいて、村の人の役に立ってる姿なんて。
「その獣鬼がどうして人間を襲うの? だって、獣鬼は人間の味方なんでしょう?」
「それは俺にも判らない。だけど、本来獣鬼は人間が動かそうと思わなければ動かないものなんだ。だから誰か獣鬼を操ってる奴がいるはずだ」
 リョウの言葉であたしが思い出したのは、祈りの最中に感じた邪悪な気配と、その言葉だった。
「獣鬼が来ていたとき、あたし聞いたわ。「祈りの巫女を殺せ」って言ってる声。それじゃ、獣鬼を操ってる人が別にいるのね。獣鬼は自分の意思で村を襲ってるんじゃないんだ」
「獣鬼に意思はない。だから獣鬼がひとりでに動き出したんだとしたら、それを操ってる奴をどうにかしない限り、村はまた襲われることになる。……俺は早くそいつをどうにかしたい。だから獣鬼が村を襲ったその現場にいたいんだ」
  ―― あたし、怖かった。リョウは再び死んでしまうかもしれない。今度こそ永久に、あたしの隣からいなくなってしまうかもしれない。
 でも、リョウはすごく真剣に、災厄から村を守ろうとしてくれているんだ。それはリョウが村の狩人だから? それとも、守護の巫女がリョウを救世主と呼んだからなの?
 だって、リョウには村の記憶がないんだもん。村の記憶がないのに、どうしてこんなに村のことを考えられるの?
「リョウ、リョウはどうしてこんなに一生懸命なの? あたしは村のことより、今はリョウの記憶が戻ることを考えて欲しいよ」
「突然の運命に踊らされてるのはおまえや村人だけじゃねえんだ。俺自身も訳の判らないことでいいかげん焦れてる。ここへ来てようやくどうすればいいのかが判ったんだ。 ―― それに、俺の記憶は戻らない。たぶん一生」