真・祈りの巫女221
 リョウが手のひらに乗せて差し出したそれは、金属でできた小さなものだった。あたしは一度も見たことがない。しいて言えば、何かの鍵のようなものに見えた。
「これ……なに……?」
「獣鬼の鍵だ。……言ってみれば、獣鬼の魂のようなものだ。これを抜けばあいつは2度と動かない」
 手を差し伸べかけていたあたしは、それが獣鬼の魂だと聞いて、思わず手を引っ込めてしまっていた。だって、それに触ったら何か悪いことが起きそうな気がしたんだもん。でも、リョウはぜんぜん気にならないみたいで、手のひらの上で鍵をもてあそび始めた。
「さっき俺はこいつを抜いてきたんだ。これがついたままだと、たとえ死んだように見えてもいつ動き始めるか判らない。事実、さっき獣鬼が少し動いただろう? これが抜いてあれば、また誰かがこれを挿さない限り、獣鬼は動けない。つまり完全に死ぬんだ」
 言葉の途中から、あたしは顔を上げてリョウを見つめていた。記憶がないはずのリョウ。でもリョウは、あたしたちが誰も知らない獣鬼の倒し方を知っているんだ。それはリョウが本当に村の救世主だからなのかもしれない。でも、リョウはどうしてそれを知ったの? 死んでから生き返るまでのたった1日。その短い時間に、リョウにいったいなにが起こったというの?
「この鍵の抜き方を、村の狩人に教えてやりたいんだ。だから守りの長老に会いたい」
 それを訊いてしまうのは怖かった。だから、恐る恐る、あたしはリョウに訊いたんだ。
「リョウ、リョウはどうしてそれを知ってるの? リョウが死んでから生き返るまでの間、リョウはどうしていたの? 神様の世界にいたの?」
 リョウはあたしを見つめて、ちょっと言葉に迷ったように見えた。
「……どこから話していいのか判らない。おまえは俺が死んでたのは丸1日だけだって言ったけど、俺にとってはもっと長い時間だったんだ。死んでる間に俺がいた場所がどういうところなのか、今のおまえに説明しても判らないと思う。だけどその場所は俺にとっては世界のすべてだった。……今、この村がおまえの世界のすべてだっていうのと同じように」
 リョウの言葉の意味ははっきりとは判らなかったけど、それがとても大切なことなんだってことだけは判った。