真・祈りの巫女220
 今のリョウには何を言うべきなのか、あたしには判らない。でも、リョウが未来を不安に思ってるってことは、少なくともあたしを好きでいてくれてるってことだよね。それだけはあたし、信じていいよね。
 会話が途切れてしまったからだろう、リョウは再びあたしに背を向けて、ゆっくりと歩き出していた。リョウとの間に壁を感じてしまったから、あたしもそれ以上は何も言えなくなって、黙ったままリョウのあとをついていく。その沈黙はさっきとは比べ物にならないほど重苦しくて、不意に泣きそうになるの。あたしはリョウのことが好きなのに、リョウもきっとあたしを好きでいてくれるのに、思ったように気持ちが通じなくて。
 そうしてしばらく歩き続けて、やがてリョウは再び神殿への坂道を登り始めたの。もう散歩は終わりにするみたい。さっき休憩した河原までたどり着いて、リョウは森の日陰に腰をかけた。
 あたしが隣に座ると、振り返らずにリョウは言った。
「守りの長老と話をさせてくれ」
 リョウの横顔に、さっきまではなかった決心のようなものが現われていた。ここまでの道程でリョウは何かの結論を出したみたい。
「どうして? ……何を話すの?」
「次に獣鬼が襲ってくるときには、俺も狩人と一緒に戦う。そのことを話したいんだ」
 あたしは、恐れていたことがとうとう現実になったことを知った。
「ダメ! お願い、リョウはもう戦わないで! リョウは戦っちゃダメなの!」
「俺は村の救世主なんだろ? あいつを倒せるのは俺だけだ。このままだと被害はどんどん大きくなる」
「ダメよ! だってリョウは一度死んだんだもん。またリョウが死んじゃったらあたしどうしたらいいのか……」
「だったらこれ以上無関係の村人が死んでもいいって言うのか? おまえだって見ただろう。俺は獣鬼の殺し方を知ってる。俺はこの村ではそれを知ってる唯一の人間なんだ」
 そう言うとリョウは、驚き戸惑ったあたしの目の前に、小さな何かを差し出したの。