真・祈りの巫女219
「リョウがどうしてそんなこと言うのか判らないよ。たとえあたしを覚えてなくても、リョウはリョウだもん。あたしは今までのリョウだけを好きになったんじゃないよ。今のリョウも、これからのリョウも、全部のリョウを好きなの。だって、リョウは今までだってずっと変わり続けてたんだから。リョウがいろんな一面を見せてくれるたびにあたしは嬉しくて、知れば知るほど好きになっていったの」
「だけど、それは過去の俺がおまえの中にいるからだろ? 1人の人間が違った一面を見せるのと、まるっきりの別人になるのとじゃ違う。記憶がない俺はおまえが知ってるリョウにはなれないんだ。これからの俺は、死ぬ前までの俺とは別の人間になる」
 あたしは、リョウの言葉が理解できなかった。
 ううん、言葉は理解できるの。だけど、リョウがどうしてこんなことを言うのか、それが理解できないんだ。リョウはどうしてこんなことを言うの? リョウはいったい何を考えているの?
 あたしは知ってる。今のリョウは、死ぬ前までのリョウと同じだってこと。だって、さっきまで背中を向けて手を引いてくれてたのは、間違いなくあたしのリョウだったんだもん。たとえばタキだったらこんな感じにはならない。ランドでも同じことはしないよ。ほかの、あたしが知ってるどんな人だって、リョウとはぜんぜん違ってるんだ。今のリョウだけが、死ぬ前のリョウと同じなの。
 でも、今まであたしが見てきたこのリョウは、以前のリョウとは違うところもあった。同時にそれを思い出したからなのかもしれない。あたしはリョウに、死ぬ前のリョウと同じだって、自信を持って伝えることができなくなっていたんだ。リョウの言うことも間違ってないのかもしれないって思ったから。もしかしたらこのリョウは、以前のリョウとはぜんぜん違う人になっちゃうのかもしれない、って。
 リョウはあたしに何を言って欲しいの? そう思ってリョウを見上げたけど、内心のおびえを隠すように固く唇を結んだその表情を見ているだけでは、リョウが欲する言葉を読み取ることはできなかった。リョウが昔と変わっていないってことを言って欲しいの? それとも、リョウがこれからどんなに変わっても、あたしがリョウを好きなのは変わらないってこと?
 でも、今あたしがどんなに言葉を尽くしても、今のリョウには伝わらない気がしたんだ。リョウはあたしのことを本当には信じてくれていない。それを肌で感じてしまったから。
 リョウとあたしの間に、今まで存在したことがないほどの大きな壁を感じた。