真・祈りの巫女217
「……いや、怖い……やめて……嫌……」
「落ち着け。大丈夫だ。あいつは2度と動かないから」
「リョウ……影が……」
 リョウの胸にしがみついたまま、あたしは半泣きになりながら恐怖に震えていたの。自分が何を口走ってるのか、それより自分がなにか言葉を発していることすら、あたしの意識にはなかった。リョウがここにいるのに、あたしの震えは止まらなかったんだ。
 リョウの服を握り締めたあたしの手に手を重ねて、そのあとリョウはあたしを抱きしめた。突然のことであたしは驚いてしまって、うまく呼吸することができなくなってしまったの。リョウの匂いがする。リョウの汗の匂い。
「……悪かった。俺が死んで、おまえは傷ついてたんだよな。こんなにおまえが取り乱すと思ってなかった。ごめんな」
 間近に感じるリョウの気配。リョウの匂いと声が、次第にあたしを落ち着かせていった。いつしか身体の震えは止まって、でも、今度は恐怖ではない別の何かにドキドキし始めていたの。だって、リョウの腕は久しぶりだったんだもん。忘れそうだったリョウの感触を全身に感じて、あたしの胸は高鳴りを増していた。
 あたしがリョウの背中に腕を回すと、不意に驚いたようにリョウが腕の力を抜いた。顔を上げると、あたしを覗き込んでいる視線と合う。少し目を見開いて、ちょっと恥ずかしそうで、その表情はあたしがよく知っているリョウと同じだったの。
 心臓の音がリョウに聞こえちゃいそうだよ。少し目を伏せると、リョウの顔が近づいてくるのが判った。その一瞬あと、なにかに追い立てられたようなリョウのキス。少し強引で、不器用で、あたしは驚いたけど、でもすごく幸せだった。
 リョウ、大好き。たとえ記憶がなくて、あたしが知らない顔ばかりを見せてくれるリョウでも、あたしはリョウを好きでいることをやめたりできない。リョウ、あなたも、あたしのことを好きだって、思ってくれる? ランドが言ったように、あたしに惹かれる気持ちは変わってなかったって、そう信じていいの……?
 唇が離れて、目を開けると、リョウは少し不安そうな表情であたしを見つめていた。あたしの反応が気になるみたい。だからあたしは、自分が1番気に入っている笑顔で、リョウに微笑みかけたんだ。