真・祈りの巫女214
「リョウ! 待って!」
 しばらくの間、リョウはうしろも見ないで歩き続けていたのだけど、いつまで経ってもあたしの声が遠ざからないことに気がついたんだろう。ようやく立ち止まって、あたしが追いつくのを待ってくれた。
「はあ、やっと追いついた。……リョウ足速いよ」
「ついてくるなよ。影が怖いんだろ?」
「影よりもリョウがあたしの知らないところで死んじゃう方がよっぽど怖いよ」
 あたしはまだ膝がガクガクしてて、いつも以上に息も切れていたから、リョウも気を遣ってくれたみたい。あたしを木陰まで連れてきて少し休ませてくれたの。周囲を見回したけど、あいにく川はなくて、リョウも水は諦めて休んでいた。リョウはまだ疲れたようには見えなかったから、たぶんあたしに飲ませてくれるつもりだったんだ。
「影の死骸がある場所を教えてくれ。ここから遠いのか?」
 あたしはまた少しためらったけど、リョウに諦める気配はなかったから、しかたなしに答えていた。
「この森の向こう側よ。このまま森に沿って歩けば見えてくると思うわ」
「判った。……おまえ、ほんとにここで待ってろ。立ち入り禁止のところに入ったらおまえの立場も悪くなるんだろ? なにか問題になったら、俺が勝手に迷い込んだことにすればいい」
「そういう訳にはいかないもん。村の決まりは知らなかったで済まされるようなものじゃないんだから。……正直に言うわね。今、あたしとリョウが影に近づいたら、罰せられるのはあたし1人だけだわ。リョウはたぶん咎めを受けない」
 リョウは少し不思議そうにあたしを振り返った。あたしはそんなリョウの腕をしっかり掴んだの。ちょっとのことでは離れないように。
「守護の巫女はね、狩人と許可を受けた神官だけが影に近づくことを許したの。リョウは狩人だから、ほんとは近づいてもいいの。でも、1人で行くって言うなら、あたしこのままずっとこの手を放さないから。たとえ決まりに背いたって、リョウを1人でなんか行かせない」
 リョウはたぶん、今足を止めたことを後悔したんだと思う。少し目を伏せて、やがて大きな溜息をついた。