真・祈りの巫女212
「え……?」
 そう言ったまま、あたしは少しの間絶句してしまった。だって、リョウが右の騎士のことを知ってるはずない。本人には知られちゃいけないことだったから、もちろんあたしは以前にも何も言わなかったし、タキが話したとは考えられないもの。
「……どうして? どうしてリョウが右の騎士のことを知ってるの? いったい誰に聞いたの?」
 リョウの答えが予想できなくて、怖くて、あたしは心臓がドキドキしてるのを感じたの。もしかしたらリョウは別人なのかもしれない。そう思ったら怖くて、でも、リョウの答えはあたしの想像を遥かに超えていたんだ。
「……俺はそんなことは言ってない。今初めて聞いた言葉だ。おまえ、なにか聞き違いでもしたんじゃないのか?」
「え? だって、今リョウが言ったんだよ。右の騎士、って。……あたしの聞き違いならほんとはなんて言ったの?」
「もう覚えてない。たぶんたいしたことじゃなかったんだろ」
 リョウはそう言うと、この話は終わりだとばかりに立ち上がった。いつの間にかあたしの手を掴むのはやめていて、あたしもそれ以上は何も訊けなかったんだ。……今のリョウの言葉、本当に聞き違いだったの? あたしが神託の巫女の予言を思い出したから、似ている言葉を「右の騎士」だと思ってしまったの?
 確かにリョウははっきりした口調で言わなかったから、聞き違いをする可能性はあるけど ――
「もう十分休憩したな。そろそろ村を案内してくれないか? ……俺の記憶が戻るかもしれないんだろ?」
 あたしは混乱してたけど、リョウはもう歩き始めていたから、再びリョウについて川辺をあとにしたんだ。
 坂を降りていくと、しばらくして視界が開けて、遠くに村が見え始める。最初に目に飛び込んでくるのはマーサの家。あたしは何も考えずにそちらへ向かおうとしたのだけど、その時ずっと黙ったままだったリョウが口を開いた。
「草原ていうのはどこにあるんだ? 村にあるって言ってたよな」
「……草原?」
「ああ、俺が死んだ草原だ。……影の死骸があるって言ったな。俺は俺を殺した影とやらの死骸を見てみたい」