真・祈りの巫女213
 リョウの言葉を聞いて、あたしの足は震えていた。頭の中が真っ白になってしまった。気がつくと、あたしはその場に座り込んで、両手を胸の前で揉み絞っていたの。
「おい、急に……」
「……ダメ。草原だけはダメ……」
「どうした。……震えてるのか?」
 リョウは膝をついてあたしの顔を覗き込もうとしてたみたい。でもあたしは自分のことで精一杯で、リョウの動向にまで気を配る余裕はなかった。……リョウを草原に連れて行きたくない。リョウは草原で影に殺されたの。草原に残ってる影の死骸は、もしかしたらまだ生きてるのかもしれない。もし万が一、リョウが影に近づいた時に生き返ったら、リョウはまた影に殺されちゃうよ!
 だって、影はあたしの命を狙ってるかもしれないんだ。あたしが近づけば、影は目を覚ますかもしれない。でもリョウ1人だけなんてぜったいに行かせられない。リョウがどんなに行きたいと言ったって、あたしはもうリョウを失いたくないの。
「ダメよ、リョウ。……草原は今、立ち入り禁止になってるの。誰も近づけないわ……」
「どうしてだ? 影は死んで、危険はないんだろう?」
「影のことは誰にも判らないの。あたしたちには死んでるように見えても、もしかしたら眠ってるだけかもしれない。それに、影はあたしを殺すのが目的なの。あたしが近づいたらそれだけで生き返るかもしれないわ」
「それならそれでどうとでもなる。……おまえは近づかない方がよさそうだな。俺1人なら逃げられても、おまえがいると足手まといになる。ここで待ってろ」
 場所も判らないのに、リョウは森に沿って西へ歩き始めたの。それは紛れもなく影がいる草原の方角だった
「リョウ! どこへ行くの? 草原の場所が判るの?」
「狭い村だ。適当に歩いてもいつか辿り着く」
 リョウは本気だ。理屈もなにもなくそれが判った。あたし、震える足を何とか立たせて、リョウの背中を追いかけた。