真・祈りの巫女211
 リョウ、あなたはあたしのリョウじゃないの? ……でも、リョウは両親と会って涙を流したんだって、ミイが言ってた。カーヤを見てどこかで会ったような気がするって言ったよ。それに、初めて神殿で目を開けたとき、はっきりあたしの名前を呼んだ。神託の巫女だってリョウが本人だと認めたじゃない。リョウが別人のはずないよ!
 あたしがリョウの言葉に衝撃を受けたのは、あたしの心のどこかにリョウを疑う気持ちがあったからなんだってことに気づいたの。この気持ちは、リョウに伝わってしまってるんだ。きっとリョウは信じるものがなくて不安で、まわりの人たちの気持ちにすごく敏感になってるはずだもん。だからこんな風にあたしを試すようなことを言うんだ。
 あたしがしっかりしなきゃいけないんだ。今のリョウはあたしの心を映す鏡のようなもの。あたしの不安を、リョウに映しちゃいけないんだ。
「リョウ、リョウは覚えていない? 初めて神殿でリョウを見つけたとき、リョウはあたしの顔を見て「ユーナ」って言ったのよ」
 リョウはちょっと目を丸くして、あたしが言ったその時のことを思い出そうとしているみたいだった。
「その時あたし、リョウの名前だけ必死に呼びかけてた。もちろんリョウに名乗ったりしなかった。今はあたしのことを思い出せないけど、そのときのリョウはちゃんとあたしのことを知ってたの。それに、神託の巫女はリョウの魂を見て、はっきり以前のリョウと同じだって認めたわ。だからリョウが別人のはずはないよ。あたしはリョウが以前のリョウと同じだって信じてるし、記憶がなくてもリョウのことは婚約者だって思ってる」
 あたしの話を聞いているときのリョウは、さっき一瞬目を見開いた以外、ほとんど表情を変えることはなかった。だからあたし、リョウがあたしの言葉にも心を動かされなかったことが判ったの。前にも……ううん、リョウはいつも、あたしの言葉には動かされない。そんなリョウを感じて、あたしはいつもリョウに認められてないことを感じて落ち込んだんだ。
 不意に、手に触れる感触があって、あたしはハッとした。いつの間にかリョウは右手を伸ばして、あたしの手首を掴んでいたの。しばらくじっとリョウはあたしを見つめていて、そのあと、口の中でぼそっと呟いた。
「……右の騎士……」