真・祈りの巫女210
「ちょっと……なにするの? ひどいよ!」
「怒るな。少しは涼しくなっただろ?」
「だからって普通はいきなりこんなことしないもん!」
「……だったら、俺のこと嫌いになったか?」
 そう言ったリョウはこれ以上にないさわやかな笑顔を浮かべてた。……ずるいよ、リョウ。あたしがリョウのこと嫌いになるはずなんかないのに。リョウって、すごく意地悪。
「……なってない。大好き……」
 あたしが答えたら、リョウは少し表情を曇らせて、視線を外してしまったの。
 まるであたしのその答えを予期してなかったみたい。膝を立ててあたしの隣に座っていたリョウは、両膝に腕を投げ出して、下を向いたまま動かなくなってしまった。あたし、またなんか変なことを言ったの? でも、あたしはリョウの質問に答えただけだよ?
 そのまま声をかけられなくてじっと見つめていたら、やがてリョウは少し真剣な面持ちであたしを振り返った。
「……俺は、おまえのことも、婚約のことも、何も知らない。おまえが好きだったリョウとは別の人間なのと同じだ。それなのにどうして、こんなにはっきり俺を好きだって言えるんだ?」
 リョウ……そうだよね。リョウは記憶がないんだもん。見知らぬ人がいきなり婚約者だって言って、リョウを好きだって言っても、戸惑うだけだよね。でも……
「あたし、リョウの記憶は戻るって信じてる。だからリョウも信じて。不安なのは判るけど、リョウはリョウだもん。リョウはあたしの婚約者なの。だからぜったい嫌いになったりしないもん」
「……別人、なのかもしれないぜ。俺はおまえの婚約者のふりをして、おまえを騙してるのかもしれない。そうは思わないのか? ……リョウは1度死んでるんだ。リョウにそっくりな人間が、リョウに化けてるのかもしれないって、おまえは少しも疑わないのか?」
 あたしは、リョウ本人からその可能性を指摘されて、心臓を引き絞られているかのような衝撃を味わった。