真・祈りの巫女209
 リョウと一緒に辿り着いたのはシシ川の支流で、以前あたしが巫女の儀式前に禊ぎをした場所だった。よく神殿の儀式に使われる川だったから、村でも神聖視されていて、ここには漁師も足を踏み入れることがほとんどないの。別に立ち入りを禁止されている訳じゃなかったから、リョウに水と言われて思わず案内しちゃったんだけど、あたしはなんとなく近寄りがたく思ってたんだ。だから川の手前で足を止めたんだけど、リョウは何もこだわらずに河原を歩いていった。
「水がきれいだな。……来ないのか?」
 水面に手を差し入れたリョウは、隣にあたしがいないことに気づいたみたい。振り返って言った。
「あとで行くわ。ちょっと木陰で休ませて」
 リョウはそれほど気にならなかったみたいで、川の水で手を洗って、片手ですくって水を飲んでいた。1度立ち上がって、ちょっと考えるようにしたあと、もう1度しゃがんで両手で水をすくったの。それからゆっくりと戻ってくる。その頃にはすでに木の根元に座っていたあたしが見上げると、リョウはおもむろに両手を差し出した。
「飲むか? 手は洗ったから汚くないぞ」
 あたし、ちょっと驚いてしまった。……そうだよ。リョウはすごく優しい人だったんだもん。あたしが疲れて座ってたら気にならないはずがないんだ。あたしはさっきまであった心の寂しさが少しずつ消えていくのを感じて、自然に笑顔になっていったの。
「ありがとう」
 そう言いながら、リョウが運んできてくれた水に直接口をつけた。喉を潤す水は格別に甘くて、今まで飲んだどんな水よりもずっとおいしい気がしたの。ほとんど飲み干してしまって、顔を上げようとしたとき、リョウはいきなり両手を動かしてあたしの顔に残りの水をかけたんだ。
「キャッ!」
 水はあまり残ってなかったから、服までは濡れなかったけど、でもこれはちょっといたずらが過ぎるよ!
 そう思って少し怒った顔でリョウを見上げると、あたしの反応が面白かったのか、笑顔で見つめるリョウの視線とあった。