真・祈りの巫女208
「リョウ?」
 少しだけ心配してあたしが声をかけると、リョウの方から話し始めてくれた。
「……今の人、名前はなんていうんだ?」
「カーヤよ。リョウはカーヤのことを覚えてるの?」
「いや、覚えてる訳じゃない。……カーヤ、カーヤ。ぜったいどこかで会ってる気がするんだ。……気のせいかもしれない」
「気のせいじゃないわ。リョウはほとんど毎日のようにカーヤとも顔を合わせてたのよ。強く印象に残っててもあたりまえだわ」
 リョウはあたしの意見を聞いていたようには見えなかった。……どうしてなのかな。リョウはあたしのことはまったく思い出さないのに、ミイやカーヤを見たときには何かを思い出すような仕草をするの。リョウは婚約者のあたしよりも、カーヤの方を気にしている。リョウにとって、あたしはそんなに印象の薄い人だったの……?
 リョウは少しの間自分の中に沈んでいて、でも不意にすべてを投げ出したように顔を上げたの。
「考えてても判らないものは判らないな。次はどこを案内してくれるんだ?」
 リョウに請われて、あたしは最後に残った避難所の説明をしたあと、こんどは村を案内するために坂道を降り始めたんだ。
 神殿から村へ続く道は比較的なだらかで、途中くねくね曲がってはいるけど人が踏み固めた一本道だから、まず道に迷う心配はなかった。先に立って歩くリョウのうしろを、ちょっと足元に注意しながらついていく。あたしが黙り込んでたからだろう。とつぜんリョウは振り返って言ったの。
「どうした? さっきの元気がなくなっちまったな。疲れたのか?」
「……うん、少しだけ疲れたかもしれない」
「日中は意外に暑いからな。少し休もう。……水を持ってくればよかった」
「もう少し行くと川があるわ。あたし、案内する」
 それからはあたしが先に立って、少し下ったところで道を逸れて更に歩くと、せせらぎとともにキラキラ輝く水面が顔を見せた。