真・祈りの巫女207
 神殿につく前に、リョウが村の救世主として村人に発表されたのだということをリョウに伝えた。リョウはちょっと驚いてたから、あたしは必死にリョウに訴えたの。リョウは今のままで十分で、村を救うことなんか考えなくてもいいんだ、って。あたしはリョウに影と戦って欲しくなかったから。リョウが死んだ時の、あんな悲しみ、もう2度と味わいたくなんかなかったから。
 リョウが何も言わなかったのは、もしかしたらあたしの気持ちを察したからなのかもしれない。昨日、あたしが恐怖に混乱して口走った言葉を思い出したのかな。だから、本当はリョウがどういうつもりでいるのか、まだ影と戦うのが自分の使命だと思っているのかいないのか、あたしには判らなかった。
 神殿の敷地内に入ると、あたしは一応案内係としてリョウに建物を説明しながら、敷地中央の神殿前までやってきた。外は暑いからそれほど人の気配はなかったんだけど、数少ない通る人たちに挨拶すると、みんなちょっと驚いたようにリョウを見上げて、でもたいていは笑顔で歓迎してくれた。それまで、たとえリョウが自分の立場を不安に思ってたとしても、その不安は解消できたと思うんだ。
 リョウは何もかもが珍しいみたいで、特に神殿の建物には興味を惹かれていた。あたしは石段を上がって扉の中も見せてあげたし、階下の書庫にも案内したの。こんなところ、記憶がある頃のリョウだって入ったことがないんじゃないのかな。リョウは本にも興味を示して、文字が読めないリョウのためにあたしは背表紙の文字を1冊ずつ読んであげたりもした。
 神殿を出て、巫女宿舎を順番に案内して、やがて祈りの巫女宿舎のところまできた。あたしが扉をノックすると、間もなく中から返事があって、カーヤが顔を出したの。
「あら、ユーナ。……リョウ?」
 カーヤもほかのみんなと同様、リョウを見上げてちょっと驚いた顔をしたの。でも、すぐに笑顔になって、扉を大きく開けてくれた。
「リョウをつれてきてくれたのね。さあ、入って。今お茶を用意するから」
 意見を求めてリョウを振り仰ぐと、リョウはかなり動揺しているように見えたの。だからあたし、カーヤに言った。
「あ、いいわ。ちょっと顔を見せに寄っただけだから。まだお散歩を始めたばかりなの。またあとでくるわ」
 そうして2、3の言葉を交わしたあとリョウを振り返ると、一時の動揺はいくぶん落ち着いたようで、ちょっと目を伏せていたんだ。