真・祈りの巫女206
 リョウの言葉に、あたしはハッと我に返った。慌てて足を動かしてリョウの隣に並んだの。
「みんなリョウのことを歓迎してるわ。それに、前だってぜんぜん嫌われてなんかなかったのよ。リョウは腕のいい狩人で、村のみんなにも親切で優しかったもん。森に住んでたのは、もしかしたら少しリョウが変わってたのかもしれないけど、村でどこに住まなきゃいけないなんて決まりはないもの。リョウが家を建てたのは3年前で、神殿のみんなが手伝いに行ったの。だからリョウは誰にも嫌われてなんかいなかったわ」
 あたしが一気にそう言うと、リョウはちょっと驚いたように目を見開いていた。やがて、少しまぶしそうに目を細めたかと思うと、ほんの少し微笑んだの。
 リョウが記憶を失ってから、あたしが初めて見たリョウの笑顔だった。それはほんの短い時間だけで、すぐにリョウは笑顔を引っ込めてしまったけど、その表情はかつてのリョウとぜんぜん変わってなかったんだ。
「リョウ、今笑った。……どうしてやめちゃうの? もっと笑っててよ」
「……なんだよ。俺が笑ったからなんなんだ? どんな顔しようと俺の自由だろ?」
「あたし、笑ったリョウが大好きなんだもん。もちろん怒ったリョウも、ほかのリョウも大好きだけど、でも笑ったリョウが1番好きなの。リョウが笑ってくれると元気が出るの。落ち込んでてもね、もう1回頑張ってみよう、って思うの」
 リョウはちょっと変な顔をして、唇を結んで、視線をそらしてしまった。それきり振り返ってくれなかったから、あたしはなにか悪いことを言っちゃったのかと思って、ちょっと焦っちゃったんだ。
「リョウ、ねえ、あたし変なこと言った? リョウ怒っちゃったの? あたしが悪いんなら謝るよ。あたしリョウのことが大好きなんだもん。リョウに嫌われたくないよ ―― 」
 そうして、あたしが思いつく限りの謝罪の言葉を並べると、リョウはやっと足を止めて振り向いてくれたの。
「おまえ、変な奴。……なんとなく判った。以前の俺がどうして森の中に家を建てたのか」
 あたしが見ている前で、リョウは再び笑ってくれたんだ。