真・祈りの巫女205
 リョウが歩み寄ってくれた。それが嬉しくて、あたしの表情はずいぶん明るくなってたと思う。
「この道はね、村の神殿につながってる道なの。神殿にはあたしの宿舎もあるわ。もともとはすごく細い道だったんだけど、リョウがあの家を建てたあと、自分で広くしたのよ。階段や手すりも、小川にかけた橋も、リョウがぜんぶ自分で作ったの」
 リョウが時間をかけて、あたしのために広くしてくれた道。ふだん森の中を歩き回ってるリョウにはきっと必要がなかったと思うのに、ただあたしのためだけに作ってくれた階段。それを思うといつも、心の中があたたかくなるの。この道を歩くたびに、リョウに愛されてるんだって、実感することができるから。
「あの家の周りにはほかの家がぜんぜんないな。この村の人間はみんな、こんな風に森の中に1人で住んでるのか?」
 あたしはリョウの言葉にちょっと驚いていた。
「ううん、そんなことないわ。森の中に家を建てたのはリョウが初めてよ」
「そうか。……なら、俺は本当におまえのことが好きだったんだ」
 あたし、急にそんなことを言われて、思わず足を止めちゃったの。今まであたしが考えてたこと、リョウに見抜かれたような気がしたから。だって、リョウのこのセリフって、ちょっと会話の流れから外れてて、予想がつかなかったんだもん。
 立ち止まったあたしに振り返って、リョウは真っ直ぐな視線であたしを見つめて言った。
「おまえ、俺の婚約者だったんだろ? あのタキとかいう神官も言ってた通り、いずれ俺はおまえと一緒にあの家に住むつもりだった。だからおまえのために道を整備したんだ。そのくらいのことは判るよ」
 まるで自分の時間が止まってしまったみたい。記憶のないリョウから婚約のことが出るなんて思ってもみなかったから。あたしはもう何も言えなくて、リョウの視線を受け止めるだけで精一杯だったの。
「さあ、歩きながらもっと教えてくれよ。昨日会議があったんだろ? 1度死んで生き返った俺は、神殿ではどういう扱いになったんだ? 1人で森に住んでた俺は変わり者か、ほかの人間に嫌われてでもいたのか? この村で俺はちゃんと歓迎されてる存在なのか?」