真・祈りの巫女204
 食事中、リョウはほとんど話をしようとしなかったから、あたしはときどきリョウを横目で盗み見ていた。リョウの代わりにミイがずっとしゃべっていて、あたしは相槌をうったり、ミイが気にしない程度に会話を盛り上げるのでちょっと忙しかったの。だから食事もそれほどスムーズには進まなくて、半分くらい食べたところでリョウが席を立とうとしたんだ。ごちそうさまを言ったリョウに、ミイがすかさず声をかけていた。
「リョウ、今日はもう練習しちゃだめよ。午前中だけだってランドに言われたでしょう?」
「自分の身体のことはよく判ってる。ランドには黙っててくれ」
「なに言ってるのよ。あたしがランドに隠し事なんかできる訳ないじゃない。そんなことより、リョウはまだこの家の周りしか見てないでしょう? せっかく動けるようになったんだから、散歩でもしてらっしゃい。もちろん狩りの道具は置いてよ。……ユーナ、時間は大丈夫? あたしが一緒でもいいけど、リョウだってきっとユーナと一緒の方が嬉しいと思うの」
 ミイはまるですごく楽しいことを思いついたんだという風で、もちろんあたしは嬉しかったからすぐに了承したんだけど、リョウはちょっと戸惑ってるようだった。どうやらリョウがミイに逆らえないのは記憶をなくした今でも変わってないみたいね。けっきょくリョウも承諾してくれたから、あたしの食事が済むまでちょっと待っててもらって、一緒に散歩に出かけることにしたの。
 扉を出ると、リョウが先に立って神殿への上り坂を歩き始めた。歩調はゆっくりで、あたしはいつでもリョウの隣に並ぶことができたはずなのに、ずっとうしろからついていったの。どうしてなんだろう。なんとなく、リョウに拒絶されているような気がしたから。もしかしたらリョウはあたしと散歩なんかしたくなかったかもしれない。ミイに言われたから仕方なく一緒に歩いてるだけなのかも。そんなことを考えちゃったら、心が重くなって、足が進まなくなっちゃったんだ。
 リョウに嫌われたくない。タキは婚約者なんだから自然に接すればいいって言ったけど、今のあたしは以前リョウとどんな会話を交わしていたのか、思い出すことすらできなくなっていたの。そんなあたしの戸惑いを、もしかしたらリョウは感じていたのかもしれない。ふと歩く速さを変えて、あたしに並んでくれたんだ。
「この道はどこへつながってるんだ?」