真・祈りの巫女199
 ミイは汗をかいて休憩しにくる2人のためにたくさん沸かしたお茶を冷ましていて、あたしにも1杯ご馳走してくれた。
「リョウは急にどうしたの? あんなに動いて、傷の方は大丈夫なの?」
 だって、リョウは昨日までベッドで寝ていたの。確かにタキは今日から動いていいって言ってたけど、それはたぶん日常的な動作のことで、狩人の仕事をしていいって意味じゃなかったはずだから。
「傷のことはね、あたしもよく言い聞かせたから、たぶん大丈夫だと思うわ。ランドも、少しでも無茶したら2度と教えないって、リョウと約束したみたい。リョウは昔からあたしたちに逆らったことなんてないのよ。怒らせたら怖いって、よく知ってるの」
「でも、リョウは記憶喪失なの! 昔のことはぜんぜん覚えてないのよ」
「頭で考えて判らなくても、身体のどこかできっと覚えてる。あたしとランドはね、昨日そのことを確信したの。……ちょっと長い話になるけど、昨日の夜から順を追って話してあげるわね」
 ミイは、どこから話そうかちょっと思い巡らすようにお茶を飲んで、やがて静かに話し始めた。
「昨日の夕方、ランドがここへきたの。あたし、ランドにリョウのことを任せて、村にリョウの両親を迎えに行こうと思ってたのね。でも、そろそろ暗くなりそうだったから、あたし1人じゃ危ないって。疲れてるのにランド、代わりにもう1度村へ降りてくれたのよ」
 ミイの話はそんなノロケから始まったから、聞きながらあたしは思わず吹き出しそうになってしまった。
「ランドが帰ってきたときにはずいぶん暗くなってて、あたしはリョウの食事だけ先に済ませて、ランドの分は用意だけして待ってたの。ランドはタカとセイを一緒に連れてきてて、事情の方は道々話してくれてたみたい。あたしが先にリョウの部屋に入って、両親がきていることをリョウに話したの。それからランドが2人を連れて部屋に入って、タカとセイはすぐにリョウの傍に駆け寄った。……セイは終始泣きじゃくってたわ。リョウのベッドに突っ伏して、時々リョウの顔を見上げて、言葉になってなかった。タカはずっとリョウの肩を抱いてたの。リョウはしばらく呆然としてたんだけど、そのうちね、こらえきれないように涙を流したの。『ごめんなさい。俺はあなたたちのことを覚えてない』って言って」
 あたしは、その時のリョウの様子が手に取るように判る気がした。