真・祈りの巫女197
 カーヤが自然な動作でお茶の用意を始めたから、それはカーヤに任せることにして、あたしはローグに向き直った。
「まあ、ひところよりはずいぶん元気になったね。でも、オミは肋骨を傷めてるから、今でもけっこう苦しいはずだよ。自分で起き上がれるようになるにはもう少しかかりそうだ。しばらく様子を見るけど、もしも起き上がれそうなら徐々に歩き回っても大丈夫だよ」
 そう、ローグの話を聞いて、あたしは心配が増したと同時に少しだけ安心することができたの。オミの怪我は、時間が経てばちゃんと元の通りに治るから。ベッドにつぶされて足の骨を砕かれてしまったライよりはずっと運がよかったんだ。
「よかった。安心したわ。……ライはどう? 少しは元気になってるの?」
「ライ、か。……そうだな、身体の方は少しずつよくなってるよ。食事の量も増えてきたしね。ただ、表情に生気がないんだ。なんと言うんだろうね。世の中には自分の力ではどうにもならないことがあるんだってことを、あの幼さで知ってしまった。そんな痛ましさを感じるよ。……まだたったの2歳で、言葉すらしゃべれないのにね」
 あたし、しばらくライに会いに行ってなかったことを後悔した。すぐにでも会いに行きたかったけど、でもなんだか気持ちが萎えてしまって、そんな気になれなかったんだ。どうしてだろうって、ちょっと考えて気づいたの。前に会った時、ライはあたしの顔を見て大きな声で泣いていた。自分では気づいてなかったけど、あの時あたしは少なからず傷ついていたんだ。
「ローグ、ライのことをお願い。たくさん優しくしてあげて」
「祈りの巫女は、まだライに会う勇気は出ないかな?」
 ローグは相変わらず鋭くて、あたしをドキリとさせたの。詳しい経緯を知らないタキとカーヤも、ちょっと驚いてあたしとローグを見比べた。
「ライはまだ自分自身の人間関係が狭いからね、少しでもライと顔見知りの君がきてくれると、それだけでも元気が出ると思うんだ。もしも勇気が出せたら、いつでもかまわないからぜひ見舞ってあげて欲しい。……実際、祈りの巫女くらいしかいないんだよ。ベイクの家の近くに住んでいた人たちはみんな被害にあって、他人の子供を心配するどころじゃなくなってるから」
 ローグの言うことは理解できたけど、あたしはまだローグにはっきり約束することはできなかった。