真・祈りの巫女194
 あたしは、畑の中で嵐に怯えながら震えている野菜たちを想像して、ちょっと胸が痛くなった。でも、その痛みで気づいたの。その時の野菜たちの怯えや絶望は、今の村人たちに共通するものがあるんだ、って。
 野菜はカーヤにいろいろ訴えて、手を加えてもらって、いい環境を手に入れる。それって、あたしが神様に祈るのと似てるんだ。カーヤはすべての野菜の声を聞くことができて、今は畑にカーヤはいない。そういう違いを探せばたくさんあるけど、野菜たちにとってのカーヤが、あたしたちにとっての神様だってことは、すごくよく判ったの。
「それで? カーヤはどうするの?」
「ほとんど何もできないわ。川の水があふれて流れ込まないように板を立てるくらいよ。でも、そんなものはほとんど役には立たないわ。風で倒れて、鉄砲水に流されて、泥の中に埋まってしまうの。嵐が引いたときにはもう野菜の声は聞こえない。すべて死んでしまうのよ」
「……」
「あ、でも誤解しないで。そんなひどい嵐はこの村にはめったに来ないから、ほとんどの場合はちゃんと耐えてくれるわ。それに、たとえすべてが流されてしまっても、あたしたちは諦めたりなんかしない。また1から種を植えて、新しい野菜を育てるのよ」
 1度似てると思ってしまったからだろう、あたしはカーヤの話を村の災厄と重ねていた。ただ黙って災厄が通り過ぎるのを待つ村人たちと、何もできない神様。そして、村が滅びてしまえば、またそこに新しい村を作り始める神様。……ううん、あたしたちは野菜とは違う。だって、みんな影と戦える。リョウは影を殺すことができたし、それができない村の人たちは西の森に穴を掘ることができる。それに、あたしたちは動けるんだもん。影から逃げることだってできるんだ。
 たとえ神様が影にかなわなくても、あたしたちはまた村を1から作り上げることもできる。……そんなの、まだ考えちゃいけないよ。神様はきっと影より強いもん。祈りの巫女のあたしは、少なくともあたしだけは、神様を信じていなくちゃいけないんだ。
 神様を信じるのも祈りの巫女の仕事だよ ―― そう、リョウが言ってくれたのはいつだろう。もうあんまり思い出せない。なんだかすごく、リョウの存在が遠い ――
 でも、そう感じたのはたぶん眠かったからで、いつしかあたしはすっかり寝入ってしまっていたの。