真・祈りの巫女192
 祈りを神様に届けたい。これほど純粋にそう思ったことって、今までなかったような気がする。神様の理を人が理解することはできない。守りの長老が言ったように、もしかしたら神様はあたしの願いをかなえてくれないかもしれないけれど、でも祈らなければ祈りを届けることすらできない。祈りが届くならば、あとはすべて天命に従うよ。滅びるのが村の運命なら。
 でも、そんなことはありえないって、あたしは信じてる。最初からそう信じればよかったんだ。だって、運命の巫女は、祈りの巫女の祈りが村の運命を紡いでいくんだって、そう言ってたんだから。
 そうして、1つの祈りを終えたあとも、神様はあたしに語りかけることはしなかった。でも不思議と失望感はなかった。きっと神様には神様の都合があって、そうたびたび声を聞かせてくれるなんてできないって思ったから。
 ろうそくを片付けて扉の外に出ると、まだいくぶん温かみを残した外気に包まれた。……どうしてだろう。なんだか世界がすごく愛しく感じるの。空気の暖かさなんて、少し前まではまったく感じることができなかったのに。
 何がきっかけだったのか、思い出すこともできないけど、あたしは今まですごく頑張ってきたんだってことが判った。あたしは祈りの巫女だから、みんなの期待を背負ってるんだから、何があっても祈りの巫女の使命を全うしなくちゃいけないんだ、って。あたし、頑張りすぎてたみたい。だから会議のちょっとしたことで動揺して倒れるくらい、気持ちが脆くなってたんだ。
 たぶん、タキの思い遣りや、オミの悩み、いつもと同じように振舞ってたカーヤを見て、あたしの中で何かが変わったの。自分1人で張り詰めてることがばかばかしく思えたのかもしれない。だって、みんな自分のことで一生懸命で、こんな時なのにちゃんと生きてるんだもん。
 あたしはもっと力を抜いててもいい。みんなと同じように一生懸命生きていたら、きっと神様は助けてくれる。祈りがかなえられないからって、焦らなくていいの。だって、あたしにはいつかみんなの願いをかなえる力があるんだから。
 宿舎の扉を開けると、カーヤが食器の片付けをしているところだった。
「ただいまカーヤ。……ねえ、今日、カーヤの部屋で一緒に寝てもいい?」
 カーヤはちょっと首をかしげたけど、やがて呆れたように笑って、あたしのわがままを許してくれたんだ。