真・祈りの巫女193
 眠るまでの間、あたしは自分の部屋でこのところずっと滞っていた日記をつけた。ずいぶん溜めてしまったから、詳細にという訳にはいかなかったけれど、ひとまず今日の分までは追いつくことができたの。それにずいぶん時間がかかってしまったから、あたしがカーヤの部屋を訪れた時には、いつもの眠る時間をかなりすぎてしまっていた。
 カーヤの部屋にはベッドが2つあって、宿舎の住人が増えた時にはこの部屋は2人部屋にできるようになっている。村には新しい怪我人は出ていなかったけれど、カーヤは空いているベッドがいつでも使えるように整えてくれていたから、ふだん使っていない方のベッドもそれを感じさせないくらい快適だった。こんな風にカーヤと2人で寝るのって、実は初めてのことだったの。あたしはなんとなくワクワクして、少し興奮気味で、カーヤも呆れてしまったみたいだった。
「子供の頃にね、何日間かアタワ橋の東にある親戚の家に行ったことがあるの。あんまりはっきり覚えてないんだけど、たぶんオミがちょっとした病気にかかって、治るまでの間あたしだけ預けられたのね。その家にはあたしよりも少し年上の女の子がいて、その子の部屋で毎日一緒に眠ったの。父さまや母さまに会えなくてさびしがってたあたしに、その子はいろいろな物語を聞かせてくれたのよ」
 暗闇の中、あたしは目を閉じて、その時のことを思い出していた。さびしかった思い出よりも、その子が話してくれた物語がとても面白かったことの方を思い出すの。あの時はしばらく我慢したら両親に会えると思ってた。でも、今はもう2度と両親に会うことはできない。
 あたしは今、カーヤに甘えることを自分で許していたの。オミにはあんなことを言ったのに、あたし自身はまるっきり反対のことをしていたんだ。
「……物語は、あんまり知らないわ。あたしはユーナのような体験はしてないもの。その代わりに野菜たちの話を聞いて育ったのよ」
「例えば今回のような時、野菜はどんなことを言うの? 自分たちの畑が影に踏みにじられて、育ててくれた人は助けてくれなくて、自分で逃げることもできない。そんな時、野菜はどんな言葉をしゃべるの? 悲鳴を上げたりするの?」
「そうね、あたしはこの災厄で野菜の声は聞いてないけど、嵐の時の声は聞いたことがあるわ。……悲鳴を上げる野菜もいた。でも、多くはただ黙って、嵐が過ぎ去るのをひたすら待つのよ」