真・祈りの巫女187
 会議の内容はぜんぜん頭に入ってこなかった。声は聞こえていて、なにをしゃべってるのかもだいたい判るのに、あたしの頭が理解することを拒否しているの。それでもなんとか顔を上げていたら、向かいにいた聖櫃の巫女があたしの様子に気づいたみたい。心配そうな表情で声をかけてくれた。
「どうしたの? 祈りの巫女、真っ青よ」
 あたしが答えることすらできずにいると、ほかのみんなもあたしが普段と違うことに気づいてくれたみたいだった。
「大丈夫か? 気分でも悪いのか?」
「様子がおかしいわね。すぐに宿舎へ帰った方がいいわ。誰か……」
「オレが連れて行くよ」
「いいえ、タキには祈りの巫女の名代として残ってもらいたいわ。ええっと」
「私がついていくわ。今の議題には関係ないし、内容はあとでカイに聞かせてもらうから」
 そうして、あたしは聖櫃の巫女に手を取られて、長老宿舎をあとにしたの。外の空気を吸ったら、あたしの気分はずいぶん回復していた。それで改めて、自分がさっきまでものすごく追い詰められていたことに気がついたんだ。
「ごめんなさい、聖櫃の巫女。……ありがとう」
「いいえ、どう致しまして。宿舎で少し休むといいわ。ずっと張り詰めていて疲れが出たのよ」
「……そうね、そうかもしれないわ」
 聖櫃の巫女と少しの会話を交わしていると、宿舎が徐々に近づいてきて、あたしはまた少し身構えてしまった。だってあたし、前回の会議に出席するために宿舎を出て、それから1度も帰ってなかったから。きっとカーヤにもすごく心配をかけちゃったよ。このところずっと心配のかけどおしだったから、もしかしたらカーヤは呆れて怒っちゃったかもしれない。
 でも、少しほっとしたことに、カーヤはちょうど宿舎を留守にしていたの。たぶんオミはいたと思うけど、精神的に疲れていたあたしは声すらかけずにいて、そのままベッドに入って眠ってしまったんだ。