真・祈りの巫女180
 神託の巫女は、今ここに初めてリョウが産まれたんだって、そう言った。タキは、ここをスタートラインにして、新しい恋人関係を築いていけばいい、って。でも、そうしたら今までのリョウはどうなるの? あたしは今まで一緒に過ごしたリョウのこと、忘れなければいけないの?
 そんなの嫌だよ! だって、あたしはずっとリョウと一緒にいたの。リョウがいなければ今のあたしだっていなかった。あたしがリョウを忘れるなんて、そんなことできるはずがないよ。
「……リョウの記憶は戻るわ。あたし、そう信じてる」
 そう言って、あたしは強引にタキとの会話を終わらせて、リョウの家へと戻っていった。タキはもうあたしに声をかけることはしないで、うしろから黙ってついてきていた。ノックのあと家の扉を開けて、ミイがまだ寝室にいることを知って、寝室のドアをノックしたの。中からミイの「はーい」って返事が聞こえたから、それを入っていいという意味だと解釈して、あたしは寝室のドアを開けた。
「あっ! ま……」
 その時目に飛び込んできた光景に驚いて、あたしはすぐにドアを閉めてしまったの。
 リョウは上半身を起こして、あたしを見ると焦ったように声を上げて目を見開いた。身体の包帯をぜんぶほどいていて、上半身だけほとんど裸だと言っておかしくなかったの。あたし、服を脱いだリョウなんて今まで見たことがなかった。だからびっくりして、ドキドキして、その瞬間に頭の中が真っ白になっちゃったんだ。
「どうしたの?」
 タキの問いかけにもどう答えたらいいのか判らずに顔を赤くしてると、中からドアが開いてミイが顔を覗かせた。
「ごめんなさい、ユーナ。うっかりしてたわ。あたしってほんとにおっちょこちょいね。よくランドに呆れられちゃうの」
「なに? どうかしたのか?」
「リョウの包帯を替えるついでに身体を拭いてあげてたのよ。お嫁入り前の女の子には刺激が強すぎたわよね。ほんとにごめんなさい」
 あたしはなにも答えられなくて、タキが傷の具合を診るといって寝室に入ってからも、しばらくドキドキが治まらなかったんだ。