真・祈りの巫女179
 あたしはリョウのなにを好きなんだろう。優しいところ? でも優しくないリョウのことだってあたしは好きだった。リョウがあたしのことを好きでいてくれるから? でも、リョウがそっけなくしてた頃だって、あたしはリョウを好きでいることをやめたりしなかったよ。
 リョウを好きだと感じた瞬間のことを、あたしはたくさん思い出せる。抱きしめてくれる腕も、キスしてくれた唇も。あたしをいつも元気付けてくれた手。その微笑みや、照れたようにそっぽを向いてしまったその背中だって ――
 今、あたしのことをすべて忘れてしまったリョウには、あたしが好きだったリョウがなにもない。ううん、少しはあるけど、でもあたしが1番好きだったリョウの笑顔さえ、あたしはまだ見ていないんだ。
「……なんか、オレはまた余計なことを言ったみたいだな」
 あたしが黙り込んでしまったからだろう、ちょっと緊張を解くように微笑んで、タキが言った。
「自分が卑怯なのは知ってるけど、でもまったく罪の意識を感じてない訳じゃない。……祈りの巫女、オレが言いたかったのはつまり、君1人だけが婚約にこだわることはないんじゃないかってことなんだ。リョウには他の人を好きになる権利があって、もしかしたらそういうことも起こるかもしれないけど、同じ権利は祈りの巫女にもある。だから万が一、君がリョウを好きでなくなったとしても、誰も君を責めたりはできないと思うんだ」
 あたしはなにも答えられなかった。だってそんなこと、考えたくもないことだったから。タキが言ってることが正しいって、あたしには判るのに、あたしはそんな話を聞きたくはなかったの。
「だけどさ、祈りの巫女。リョウも君も、生まれたときからお互いを好きだった訳じゃないだろ?」
「……」
「まず出会いがあって、そのあと交流があって、少しずつ惹かれていった。気持ちがしだいに育って、お互いになくてはならない存在だと思うようになった。それと同じことを、これからの2人が繰り返す可能性もあるんじゃないのか? 君とリョウは、ここをスタートラインにして、もう1度恋人同士になればいいんじゃないのかな」