真・祈りの巫女178
 あたし、タキがそんなに驚くような表情をしてるのかな。自分ではよく判らなくて、それでなんとか微笑を浮かべようとしたの。
「なんでもないの。……あたし、リョウが本物なのは判ってた。だからぜんぜん不安じゃなかったわ。でも……リョウの記憶が戻らなかったら、たとえ本物でももう1度あたしを好きになってくれるかどうか判らない。……今、それに気づいたの」
 話している途中で、あたしはタキとこういう話をするのが初めてなんだってことに気がついた。タキは目を見開いたままで、少し戸惑ってもいるみたい。だからちょっとだけ話したことを後悔し始めたんだけど……。
 あたしが言葉を切ったあと、タキは少し怒ってるようにも見える表情で言ったんだ。
「 ―― それはさ、祈りの巫女。君にも言えることなんじゃないのか?」
 声の調子は穏やかで、あたしにはタキが怒ってる訳じゃないってことが判ったけど、タキに正面から見つめられて自分でどうしたらいいのか判らなくなってしまったの。
「……あたし……?」
「ああ。今ここにいるリョウは死ぬ前と同じリョウなんだってことが証明されたけど、彼には今までの記憶が一切ないんだ。幼い頃から祈りの巫女と過ごしたという想い出もないし、あまり彼のことを知らなかったオレにだってずいぶん印象が違うように見える。まるでリョウと同じ姿をした他人に見えるよ。……祈りの巫女、これからリョウがなにも思い出さないでいたら、君は本当にリョウを好きでいられるの? あのリョウは、祈りの巫女にとっても、初めて出会う他人と同じなんじゃないのかな」
  ―― 思いがけないタキの指摘に、あたしは答えることができなかった。
 あたしはリョウのことが好き。たとえリョウが記憶喪失になって、あたしのことをぜんぜん思い出してくれなくたって、あたしはリョウを好きでいることをやめたりしない。ずっと傍で見守って、リョウの記憶が戻る手助けをするの。だって、リョウはずっとそうしてくれたんだもん。幼い頃の記憶をなくしたあたしを、記憶が戻るまでの7年間、黙って見守っててくれたんだもん。
 だけどあたし、タキに自身を持ってそう告げることができなくなっていたの。タキの言葉で自信が揺らいでしまったの? ……ううん、違うよ。あたしは自分の心に自信がなかったから、リョウの心にも不安を持ってしまったんだ。