真・祈りの巫女177
「でも、それじゃリョウには何を話せばいいの? さっきリョウと約束したのに、話せることが何もないわ」
「以前と同じ予言が出てきたことを話してあげればいいわ。リョウが本物のリョウだと認められた、って。それと、村の人間として認められたのだから、とうぜん村人としての権利や義務も出てくるわ。例えば、村のどこでも動き回ることができる権利や、ごく普通の生活をするための物資を受け取る権利。あと、村の決まりを守る義務や、村のために何かの仕事をする義務ね。このあたりはリョウが動けるようになったら少しずつ話してあげるといいわ。……もちろん、村を出て行く権利もあるってことを言い忘れないで」
 あたし、この神託の巫女の言葉を聞いて、はっと息を飲んだの。だって、子供の頃のリョウは村を出て行ってもおかしくないような子供だったから。今のリョウが、子供の頃のリョウに似ているのなら、記憶を失ったまま村を出て行ってしまう可能性もあるんだ。
「権利や義務のことならオレにも教えられるよ。適当に時期を図ってオレが話しておく。今のところリョウはかなり友好的だし、常識的でもあるから、それほど無茶な振る舞いはしないと思うよ」
「ええ、それは私もそう思うわ。記憶がないことは本人も認めていたし、実際にそうなのでしょうけど、今のリョウは記憶をなくしていることが信じられないくらい常識的でもある。たぶん、そういう感覚が根付いてしまっているのでしょうね」
「ほら、大丈夫だよ、祈りの巫女。……神託の巫女、ほかに話がなければオレと祈りの巫女は戻るけど」
「……ええ、そうね。私も神殿に戻るわ。リョウの誕生の予言を忘れないうちに書き留めておかなければならないもの」
 そうして、神託の巫女が歩き去ってからも、あたしは呆然としたまましばらく立ち尽くしていたの。リョウはもう、1人の村人として認められてしまった。これからはリョウはどこへ行くのも自由だし、記憶がない以上、あたしと結婚してくれるかどうかも判らない。それどころか、この村を出て行ってしまうこともありうるんだって気づいたから。
 ここにいるリョウは、もうあたしの庇護を必要としてない。例えばあたし以外の人を好きになることだって、十分ありうるんだ。
「祈りの巫女、オレたちも戻ろう。リョウに今の話を聞かせてやらなければならないんだろ?」
 タキの声にあたしが振り返ると、タキはずいぶん驚いたようだった。
「祈りの巫女。……どうしたの? リョウが本物だって確かめられたのに、どうしてそんな顔をしてるんだ?」