真・祈りの巫女176
 神託の巫女の言葉に、守護の巫女はちょっと首をかしげた。
「ええ。これから帰って運命の巫女の話も聞かなければならないの。祈りの巫女に話って? 私には内緒のこと?」
「いいえ、いつもの話よ。初めての子供を持った両親にする話」
「それなら私は聞く必要がないわね。判ったわ。それじゃ、また午後に」
 守護の巫女は笑いながらそう言って、急ぎ足で神殿へと戻っていった。それを見送って、神託の巫女はあたしに振り返ったの。
「神託の巫女、リョウはあたしの子供じゃないのよ」
「そうね。でも同じだわ。だって、リョウの誕生の予言を聞いたのはあなたなんだもの。リョウは今初めて生まれて、誕生の予言を受けることでこの村の人間として認められたのよ。だから、これからリョウを世話していくあなたが、リョウの誕生の予言について責任を負わなければいけないのよ」
 あたし、リョウの母親になっちゃったの? リョウはあたしより3歳も年上で、しかもあたしはリョウの婚約者なのに。
 そんなことを思って、目を白黒させたあたしを、神託の巫女は笑った。
「変な想像はしなくていいわ。ただ、誕生の予言は神聖なものだから、これも1つの儀式のようなものだと思って聞いてくれればいいのよ。 ―― まず、誕生の予言の中身については、基本的に本人には話してはいけないものよ。今回は出ていないけれど、寿命や将来の職業、結婚相手、すべてにおいて両親の胸の内にしまっておくの。例えば万が一、子供の結婚相手が別の人と結婚したとしても、子供自身が別の人と結婚しようとしたとしてもね。誕生の予言は、親が子供の人生を邪魔するために行うものではないのよ」
 あたし、最初は神託の巫女が言うことがあまりピンと来なかったけど、少し考えて思い当たることがあるのに気がついたの。あたしの両親は、あたしがリョウと結婚することを反対したりしなかった。リョウの両親も。
「でも、あたしは両親にずっと言われていたわ。おまえは将来祈りの巫女になるんだよ、って」
「それはあなたが特別だったからよ。祈りの巫女は、自分で希望してなれるような職業じゃないもの。今回のリョウには右の騎士の相が出ていたけれど、もちろんこれも本人には内緒にしなければならないわ。理由は判るわよね」