真・祈りの巫女174
 リョウの家を出て、家から少し離れた森の木陰まで来た時、それまでじりじりしながら待っていたらしい守護の巫女が言ったの。
「さあ、結論を先に言ってちょうだい、神託の巫女。彼は右の騎士なの? それとも違うの?」
 神託の巫女はちょっと戸惑ったみたい。あまり歯切れのよくない口調で答えた。
「そうね、右の騎士がリョウであるという図式を信じていいのなら、間違いなく彼はリョウ本人よ。あのリョウは右の騎士だったわ」
「本当に?」
 とっさにそう声を上げたのは、守護の巫女じゃなくてタキだった。タキは、守護の巫女が神託の巫女を連れてくるように言った時から、ずっと落ち着きがなかったの。たぶんリョウが本人だってほんとに信じてなかったんだ。もちろんあたしは信じてたから、神託の巫女に任せることも、リョウの機嫌を損ねるんじゃないかってこと以外はぜんぜん不安に思っていなかった。
「その予言に間違いはないのでしょう? どうしてあなた自身は信じていないような口ぶりなの? 先代の誕生の予言に間違いがあったとでも言うの?」
 リョウの誕生の予言をしたのは、とうぜん今の神託の巫女じゃない。今30代の彼女はリョウが生まれたときにはまだ10代だったもの。もちろんあたしの誕生の予言も先代の神託の巫女が行ってるんだ。でも、その記録は書庫の戸籍にちゃんと残っているから、今の神託の巫女だって目を通してるはずなんだ。
「私の予言にも、先代の予言にも間違いはないわ。私は先代の日記を……当時は物語の執筆が途中だったから日記の方を読んだのだけど、リョウが生まれた日の日記に右の騎士の記述があったのはちゃんと覚えているの。だからそういうことではなくて……。
 私は誕生の予言を言葉として読み取るのではないわ。その人の魂の形、色、そういうものを感じて、それを言葉に置き換えるの。その解釈という作業をするためには知識と経験が必要なのね。知識というのもけっきょくは昔の神託の巫女の経験から学ぶものだから、今まで私たちが経験していない魂の形や色を解釈することは難しいのよ」
「……つまり、どういうことなの? リョウの魂には、代々の神託の巫女が誰も経験していないような色や形があるとでもいうの?」
「誰も経験していないかどうかは判らないわ。でも、少なくとも私は初めてだし、先代がこの予言に一切触れていないのも確かなのよ」