真・祈りの巫女172
 守護の巫女はベッドの枕もとにあった椅子を動かして、そこに神託の巫女を座らせた。これからは彼女が主役になるのだとリョウに知らせるように。神託の巫女は視線で守護の巫女にお礼を言って、リョウに向き直った。その表情には、いつもの彼女の優しい笑みが浮かんでいたの。
「こんにちわリョウ。身体の具合はどう? 傷は痛むの?」
「いや。薬がよく効いているから痛みはない。……俺に触れるってきいたが、子供にほどこすようなものだから痛くはないんだろうな」
「ええ、もちろんよ。痛みも違和感も、人が感じるほどの変化は何もないわ。本当に普通に触れている感触があるだけよ。安心して」
 リョウは最初の頃のような、警戒心を全面に押し出すような表情をすることはなかった。ずっと穏やかで、ずいぶん打ち解けてきているように思えたの。リョウ自身がだんだん変わってきてるんだ。タキやミイと話をしたことで、リョウは人を信じる心を少しずつ取り戻してきているのかもしれない。
「俺に触れて何を見るんだ? 俺の記憶も見えるのか?」
「いいえ、残念ながら記憶は見えないわ。リョウの記憶を取り戻す手助けもできない。私に見えるのは、その人の魂のあり方だけなの。その魂が持つ宿命や運命、方向性なんかを見るのね。それを予言に置き換えるの。……人間の魂はね、その人が生きる道筋のほとんどを知っているわ。例えば、身体を動かすことを得意としていて、人や村を守る相が出ている魂が、将来神官になることはないわ。物静かで探究心旺盛な魂が狩人になることもない。そういう個々の魂が持つ色と寿命、あと、対になるべき魂の場所を感じて、それらを総合して私は誕生の予言を行うの。でも、ごく稀に、特別な宿命を持った魂と出会うことがあるわ。 ―― 例えば祈りの巫女のような」
「……」
「祈りの巫女は数10年か数100年に1人しか生まれてこないの。その魂の色は本当に特別で、その他の要素をすべて消してしまうくらい強烈な色を発しているわ。もしもあなたが同じような特別な宿命を持っていたら、私にはあなたの運命も、結婚相手も、何も見ることができないでしょうね」
 リョウは右の騎士だった。神託の巫女はたぶん、リョウよりもむしろあたしや守護の巫女に聞かせたくて、この話をしたのだろう。