真・祈りの巫女169
 少しの間、あたしは話し掛けるきっかけがつかめなくて、さっきまでミイが座ってた椅子に腰掛けてリョウを見つめていた。リョウも今は上半身を起こしていて、不審そうにあたしを見つめてる。さっきまでミイとどんな話をしてたんだろう。あたしはまだリョウとはほとんどまともな会話をしていなかったから、そのことがちょっとだけ気になったの。
「……ごめんなさい、リョウ。お話の邪魔しちゃって」
「いや、別にたいしたことは話してない。あの、ミイの旦那のランドとかっていうのも狩人で、俺の仲間なんだってな」
「ええ、そうよ。リョウとランドはとても仲がよくて、最初にあたしが神殿でリョウを見つけたとき、タキと一緒にリョウをここまで連れてきてくれたの。それからもリョウのことはずっと気にかけてくれてるわ。ほら、リョウがタキと話していたとき、あとから入ってきた人よ」
「……ああ、判った。あいつか」
 リョウがそう言って、あたしがまたしばらく言葉を失ってしまうと、おもむろにリョウが息をついて言ったの。
「……で、何なんだ? 俺になにか頼みごとでもあるのか?」
 あたしが驚いて返事をできないでいると、リョウは続けた。
「俺はおまえにはずいぶん世話になってるらしいからな。俺にできることなら協力してやる。……なにか、俺のことで問題が起きてるんじゃないのか?」
 リョウはずっとあたしのことを見つめていて、だからもしかしたらあたしの表情を見て、それで察したのかもしれない。あたしはそんなリョウの心遣いをすごく嬉しく感じたの。だって、記憶を失うまでのリョウは、いつもそうしてあたしが言いづらいことも聞き出してくれたんだもん。たとえ記憶がなくても、リョウはリョウ。あたしのリョウはちゃんと残ってるんだ。
「たいしたことじゃないの。ただ……リョウが何も思い出してないから、守護の巫女はリョウが今までのリョウと同じだって、信じてくれないの。だから、それを確かめたいって、今家の前まできてるの。……リョウ、神託の巫女がリョウに触れることを許してくれる?」
 リョウは、あたしの言葉にあまり表情を変えることはしなかった。