真・祈りの巫女167
 守護の巫女の行動は迅速で、タキはずいぶん戸惑っているみたいだった。たぶんタキは守護の巫女がこんなに強力な姿勢に出てくるとは思ってなかったのだろう。不安そうな視線をあたしに向けて、神託の巫女を呼ぶために長老宿舎を出て行った。タキがその場から去ったあと、守護の巫女もいくぶん緊張をといて、微笑さえ浮かべてあたしを振り返ったの。
「祈りの巫女、いろいろときついことを言ってごめんなさい。さぞかし嫌な思いをしたのでしょうね」
「ううん。守護の巫女が言ってることはぜんぶ当然のことだもの。……あたしの方こそごめんなさい。感情的になっちゃって」
「無理もないわ。あなたは1度、婚約者を村のために犠牲にしてしまったんだもの。再び生き返ったリョウを命がけで守ろうとするのは当然だわ。……個人的にはね、あなたが元気になったことは私も嬉しいの。早くリョウの記憶が戻って幸せな結婚ができることを望んでいるわ。ただ、私は守護の巫女だから、リョウの復活を手放しで喜んであげられない。なくしていた祈りの力が戻ったことも」
 そう聞いて、あたしも初めて気がついたの。今までずっと、あたしの祈りは神様に届いてなかった。影を退けようとしてもぜんぜんうまくいかなかった。それなのにあたし、リョウの祈りだけはちゃんと神様に届けることができたんだ。あたしの力が上がったの? だから神様はあたしに声を聞かせてくれたの?
 それとも、その祈りが自分の願いだったから、強すぎる祈りだったから届いただけ……?
「祈りの巫女ユーナよ。そなたの祈りは神に届いていなかったのではないのだ」
 ずっと黙ったままあたしたちのやり取りを聞いていた守りの長老が、唐突にその重い口を開いた。守りの長老はめったに口をきかないから、その言葉は突然で、声をかけられるといつも驚いてしまうの。
「守りの長老、それはどういうこと? 神様は今までもずっとあたしの祈りを聞いてくれていたの?」
 あたしが守りの長老を見つめてじっと返事を待っていると、やがて再び語り始めてくれた。
「神の理を人が解することはかなわぬ。たとえ人に、祈りが届いておらぬように思われたとしても ―― 」
 あたしも、守護の巫女も、守りの長老の言葉を一言も聞き漏らさないように、息さえ潜めた。
「 ―― 自らの祈りの力を侮ってはならぬ。祈りは、この世にあるすべてのものを超える。……天すら動かすのだ」