真・祈りの巫女168
 それきり、守りの長老は2度と語ってくれなかった。すぐにタキが神託の巫女を連れて戻ってきたから、あたしは心を残しながらも、あわただしく長老宿舎をあとにしたの。4人でリョウの家までを歩きながら、守護の巫女が神託の巫女に簡単な説明をして、リョウの予言を読み取って欲しいと告げた。神託の巫女はあまりのことに少しだけ動揺を見せたけれど、やがて心を決めるように言ったの。
「大人に関する予言は、生まれたばかりの赤ん坊ほど純粋なものが得られる訳ではないわ。年を重ねれば重ねるほど、魂の本来の形が見えにくくなってしまうの。でも……リョウはまだ確か19歳よね。そのくらいなら見えるものも多いと思う」
「それで構わないわ。極端なことを言ってしまえば、リョウが右の騎士であることさえ確かめられればいいの。それは本人に記憶がなくても可能でしょう?」
「ええ。むしろ記憶がない方がいいくらいだと思うわ。ただ、私は記憶のない人を見たことなんてないから、それが予言にどんな影響を与えるのかは判らないけど」
 守護の巫女は気が急いているのか歩幅も大きくて、ただでさえ長身の彼女が大股で歩くと、あたしや神託の巫女ではついていくのがやっとだった。ほとんど考える暇もなくリョウの家に到着して、まずはあたし1人で家の中に入る。これだけはあたし譲れなかったの。だって、リョウは周りに対する不安をすべて払拭できた訳じゃないんだもん。神託の巫女がリョウに触れることについてなんの説明もしないでいることなんて、あたしはしたくなかったから。
 ノックをして扉を開けると、ミイの明るい声が寝室の方から聞こえてきた。声が途切れないところを見るとノックの音に気づいてないみたいね。あたしは家に入って、再び寝室の扉をノックしたの。その時やっとミイが気づいて、中からドアを開けてくれた。
「あら、ユーナ。ずいぶん早かったのね。神殿のご用は終わったの?」
「ううん、実はまだ途中なの。……ちょっとリョウと話したいのだけど、いいかしら」
「ええ、もちろんよ。外は暑かったでしょう? 今、お茶を入れるわね」
 あたしは一瞬、外で待っている3人のことを思ったのだけど、まずはリョウにその話をするべきだったからミイには何も言わなかった。ミイと入れ替わりに寝室に入る。リョウはあたしを見て、少しだけ緊張したみたいだった。