真・祈りの巫女166
 あたしは、この問題が意外に簡単に片付きそうな気がして、かなり大きな希望を持った。だって、リョウは本物なんだもん。今は記憶がなくて、怪我をして動けないけど、記憶が戻って怪我が治ればリョウはまた村を救うために力を尽くしてくれる。そりゃあ、リョウが影と戦うのはすごく心配だけど、リョウには1度影を倒した実績もあるから、祈りの巫女としてのあたしがリョウだけを生き返らせようとしたってぜんぜん不思議じゃないよ。そう思って、あたしが微笑みを見せると、なぜか守護の巫女はもっと厳しい表情をしたの。
「祈りの巫女、あなたはリョウが本物だと思うのね。記憶が戻ると信じてるのね」
「リョウは本物よ。だって、神殿では間違いなくあたしの名前を呼んだんだもの。それに、ミイに会って少しだけでも思い出したみたい。きっと記憶がないのは一時的なことで、すぐにすべてを思い出すわ」
「そうね。祈りの巫女が言う通り、すぐに思い出すかもしれないわ。でも、これから先なにも思い出さないかもしれない。リョウが自分のことを思い出さなければ本物であるとは言えないわ。影に操られた偽者かもしれない」
「本物よ! だって、守護の巫女は知らないから。今のリョウは、リョウが子供の頃によく似てるの。怒った時のリョウにも。誰にも判らなくたってあたしには判るの!」
「祈りの巫女、私は理論的な話をしているの。だから感情的にはならないでちょうだい。……私は、村の将来も守らなければならないけど、村の現在も守らなければならないわ。もし今を守れなかったら、いくら将来を守ろうとしても意味はないのよ。だから、もしもリョウが村のためによくないものなら、たとえ将来のためにならないのは判っていても、あなたとリョウをともに殺すこともありうるわ」
「……」
「誤解しないでちょうだい。私は、リョウが偽者だと決め付けている訳ではないわ。ただ、リョウの記憶が戻るまで何日か、あるいは何年かかかるのかもしれないけど、それほどの時間を待つだけのゆとりは今この村にはないのよ。だから手っ取り早く確かめさせてもらうわ。リョウが何者で、私たちにとってどんな運命をもたらす存在なのか」
 あたしは、守護の巫女の強い姿勢に押されて、もう何も言うことができなかった。
「神託の巫女をリョウに会わせる。彼女がリョウに触れて読み取った予言の内容で、今後のことを決めさせてもらうことにするわ」