真・祈りの巫女165
「ええっと、確か禁忌を犯したことで罰を受けた祈りの巫女はいなかったはずだよ。ただ……2代目のセーラは、恋人ジムの命を延ばしてる。その祈りが誰の願いとして神様に聞き届けられたのかは判らない。だから、彼女はもしかしたら、自分の願いとしてジムの寿命を延ばす祈りをしたのかもしれない。そのあとすぐにセーラは死んでしまったから真相は判らないけど」
「つまり、記録としては存在してないけれど、禁忌を犯した可能性のある祈りの巫女はいた訳ね。……祈りの巫女、私は昨日、同じことを守りの長老にほのめかされたわ。つまり、あなたが犯した罪を、歴史の上で抹殺してしまうこと」
 このとき、うつむいたままだったあたしは、守護の巫女の言葉にハッとして顔を上げた。あたしの頭の中にランドの言葉が甦ったの。あたしが自分のことを祈ったのがいけないのなら、その証拠を消してしまえばいいんだ、って。
「歴史の上で抹殺、って。……まさかリョウを ―― 」
「そうね。リョウが2番目に大きな問題であることは間違いないわ。私が守護の巫女でなければ、ランドと同じ意見を主張したでしょうね。でも、あなたを殺すことができないのに、リョウだけを殺したら、それこそあなたがなにを始めるか判ったものではないわよ。そのくらいのことは嫌でも想像がついてしまう。……話を整理するけど、第1の問題は、祈りの巫女が自分の願いを祈ったことであって、リョウが生き返ったことではないわ。だから、祈りの巫女がリョウを生き返らせる祈りをしたその理由が、祈りの巫女自身のためでなければいいのよ。他にその祈りを正当化させる理由さえあれば。……正直言ってこれは難しいわ。よほどの理由がなければ、祈りの巫女が自分の婚約者を生き返らせたことを正当化することはできないもの」
 つまり、リョウを生き返らせたことについて、リョウに生きていて欲しいというあたしの願望をしのぐほどの理由が必要なんだ。誰でも納得できるような理由が。でも、リョウが生き返って村が得することなんて、あたしには考えつかないよ。もちろん、リョウは生きていればこれから一生村のために尽くしてくれるだろうけど、それだけではリョウだけを生き返らせた理由になんかならないんだ。
「そして、第2の問題。これは第1の問題にも絡んでくるのだけど、生き返ったリョウが果たして何者か、ということね。このリョウがもしも本物なら、第1の問題もクリアできる可能性があるわ。なぜなら、以前のリョウは祈りの巫女の右の騎士だったのだから。彼が右の騎士で、これから先影を追い払うために力を尽くしてくれれば、それが祈りの巫女がリョウを生き返らせた正当な理由になるのよ」