真・祈りの巫女164
「私は、あなたが正しい心を持ってることを知っているわ。今回は恋人を失った悲しみのあまり過ちを犯してしまったけれど、いつものあなただったら祈りの力を自分のために利用したりはしない。それは確かよ。でも……怒らないで聞いてちょうだいね、祈りの巫女。人間というのは変わるものだわ。これから先、あなたがまた悲しみに襲われたり、憎しみに囚われたりしたとき、同じ事を繰り返さないとは限らない。自分の力ではどうにもならない欲望を抱いた時、祈りの力を利用しないでいられるとは限らない。なぜなら、あなたは既に禁忌という枠を踏み越えてしまったのだから。1度その一線を越えた人間が、これから先ぜったいにその線を踏み越えないでいられると信じることはできないのよ」
 守護の巫女が言っていることは正しいことだった。その正しさが判るから、あたしは自分のおろかさに涙が出そうだった。あたしは神殿の信頼を失ってしまった。1度過ちを犯したあたしは、2度と信じてもらうことはできないんだ。あたしが生きている限り、守護の巫女には不安が付きまとう。守護の巫女はずっとその不安を抱えていかなければならないんだ。
「守護の巫女、守りの長老。お願い、あたしを殺して。そうすれば不安は消えるわ」
 あたしのその言葉にも、守護の巫女は表情を変えなかったの。大きく息をついて再び口を開いた。
「昨日、タキに話を聞いたあとに守りの長老とも話したのだけど。……私は村の将来にも責任を負っているって、さっき話したわね。もしもここであなたを殺したら、12代目の祈りの巫女が禁忌を犯した記録を将来に残してしまう。それは村の将来にとってはよくないことなのよ。なぜなら、祈りの巫女が必ずしも正しい心を持っている訳ではないのだという前例を作ってしまうし、これから先同じ過ちを犯した祈りの巫女が現われた時、自分が殺されることが判っていたら、罪を隠そうとして逆に取り返しのつかないことになってしまうかもしれないわ。だから、あなたを殺すことだけでは、私の未来の不安を消すことはできないのよ」
 あたし、正直言って自分の過ちがこれほどのものとは思っていなかった。最悪の場合でも、あたしが殺されればすべて終わると思ってたの。でもあたしが死んだだけじゃ終わらないんだ。あたしは、未来の祈りの巫女にも、悪い影響を残してしまったんだ。
「タキ、歴史上11人の祈りの巫女の中で、禁忌を犯した祈りの巫女はいた?」
 突然、守護の巫女に話を振られて、タキはずいぶん驚いたみたいだった。